学祭前夜
学祭前日、実はキャンプサークルに入っている奏と菻は出店の準備をしていました。
奏「中世ヨーロッパ風のキャンプ飯ってなんなんだよって思ったけど。」
菻「案外美味しそうなものできたよね」
奏「キャンプ場で食べたら目玉焼きもキャンプ飯だもんな」
菻「確かに笑」
奏「菻さ、明日友達と回るの?」
菻「うーん、まあ、芽衣は実行委員で忙しいし、愛華はお姫様だから…空いてる人で回るかな」
奏「…井間さんが王様引き受けたのも…結構びびってるんだけど俺」
菻「愛華が引き受けたのも、もう、地球ひっくり返るんじゃないかって思ったよ」
奏「前、井間さんが菻のグループの中で仲良くなりたい子いるって言ってて…」
菻「ガチ?!?!」
奏「ガチガチ。え、それもしや」
菻「愛華…なのか?」
2人の間に少しの間沈黙が起き
奏「やーー、そんな目立ったことすると思えないけど」
菻「わざわざね、見せびらかしたりしなさそうだけど」
奏「だよなぁ…って、この話したいんじゃなかった」
菻「あれ、そうなの?」
奏「あのさ、花火あるじゃん、最終日」
菻「うん、あるね」
奏「あの…一緒に見ねぇ?」
菻「も、も、も、もちろん、いいいよ?」
付き合って結構経ちますが、まだまだ初心な2人。
菻「って言うか、学祭も回ろ?」
奏「まじ?いいの?」
菻「シフトも被せよ!めっちゃお客さん呼ぼうね!!」
奏「あったりめーだろ?」
平穏な2人、仲良しで見てるだけで心穏やかになります
・
学祭1日目
柚葆「いいいいなぁぁぁぁぁ!!!私も彼氏と回りたい!!店番したいいいい!!!」
心穏やかではない人が1名。
菻「元ヤンぶりっ子がうるさいでーす」
柚葆「うるさいわね怪力ブルドーザー!!」
由莉「ネーミングセンス…笑笑」
菻「そう言えば今日晴翔くん来るんだっけ?」
奏「ハルトくん?」
菻「愛華の幼馴染!」
由莉「そう、もうすぐ着くから相手してやんないと」
菻「じゃ、愛華見に行く時ね〜」
柚葆「それまでイチャイチャしてろ!」
学祭のメインステージで愛華と井間の出番があるのです。
晴翔たちも六花大学に着いたよう。
せいや「すげー!やっぱすげえな六花祭」
さゆり「うちとは全然違うね」
由莉「あ、いた。晴翔〜」
晴翔にヒラヒラ手を振る由莉。
せいや「えええっ、お前こんな可愛いギャルが幼馴染にいたのかよ??」
由莉は笑って晴翔の肩を抱き、
由莉「違う違う笑、晴翔は私のおもちゃだから」
晴翔「…おもちゃって」
由莉「それに、この子の幼馴染、もっと可愛いから」
せいや「これ以上可愛い子なのか??」
さゆり「ハードルめっちゃ上がってるよ…」
少し冷めた感じのさゆり。
由莉はにやりとして、
由莉「絶世の美女だから、腰抜かすんじゃない?」
そこに、葉子、柚葆もきました。
晴翔「あ、お久しぶりです。晴翔です」
葉子「お、お久しぶりです」(私のことも認識してくれてたんだ、ってか相変わらずイケメンだよな)
すかさず柚葆は、
柚葆「…晴翔くん…こちらの方は」
晴翔「せいやとだいちとさゆり、大学の友達です」
柚葆「ふふふ、どうぞよろしくお願いします❤︎柚葆です❤︎」
柚葆のあざと女子モードがオンになりました。
柚葆「よかったら一緒に回りましょ❤︎」
だいち「あんないしてくれるんですか?」
柚葆「はい❤︎」
由莉「そういえば愛華ドレス着ててめっちゃ可愛かったよ、見てくれば?」
晴翔「まじ、じゃあ行ってくるわ」
せいや「おおい?俺たちも行かせろよ」
晴翔「は」
せいや「減るもんじゃねーだろ」
晴翔「減る」
だいち「晴翔の幼馴染見るのも楽しみできたのに」
晴翔「…近付くなよあんまり。」
・
愛華を見たいというと芽衣が迎えに来てくれました。
芽衣「晴翔くん!だよね?」
晴翔「えっと…芽衣さん…」
芽衣「そうそう!ちょうど良かった!もうすぐ愛華出番だからちょこっとステージ下おいで!めっちゃ可愛いから!」
せいや「え、いいんすか?」
晴翔「お前は来るな」
せいや「いいだろ見せろよこのやろ!!!」
芽衣「皆さんでどうぞ!」
芽衣「愛華!晴翔くんきたよ!」
晴翔一同、息を飲みました。
真っ白な肌によく映えるドレスに、いつもより華やかな口紅やキラキラしたメイク、可憐なティアラは愛華の美しさを際立たせます。
あまりの美しさに晴翔は口をぱくぱく…
せいや「おい!こんな美人おまえ、隠してたのか!くそ!羨ましい!!!」
さゆり「…こんな美人だったんだ。」
愛華はさゆりにバチっと目を向けて
愛華「はる、お友達?」
晴翔はやっと我に帰り
晴翔「え、あ、お、おん、そう、とももだち」
だいち「噛みすぎ笑、はじめまして、晴翔の友達です」
晴翔「こら、これ以上近づくな」
井間「よかったね、愛華ちゃん、来てもらえて」
後ろから王様姿の井間が、
晴翔はあの写真の人だ。。。!と、警戒して睨みつけます。この人とキャラクターやるなんて聞いてないぞ…
井間「君、はるくんだよね?愛華ちゃんのこと、よく迎えにきてるよね?」
晴翔「晴翔、です。」
井間「そっか、晴翔くんか、愛華ちゃん、いっつもはるって言ってたから…」
晴翔「そうです、あいはずっと俺のことはるって呼んでるんで」
井間「晴翔くん、色々話したいことあって、俺、井間たかひろって言うから、よろしくね」
晴翔「あいに何かしたらよろしくしませんけどっ」
愛華「…?はる?」
いつも以上に威嚇し続ける晴翔。
せいやもだいちも呆れてます。
さゆりはじっっと晴翔を見つめています。
それをちらりとみて、愛華は
愛華「ねぇ、写真撮ろはる」
晴翔「いいよ」
と、晴翔は愛華の背に合わせて屈みます。
愛華「違う」
晴翔「ん?違うの?」
愛華「ん。」
愛華が両手を広げます。
するとひょいっと愛華をお姫様抱っこする晴翔。
周りにいたみんなは目を丸くしました。
愛華「芽衣〜撮って〜」
芽衣「きゃーーーー!サイコーに可愛い!!!!!」
と、ものすごい勢いでシャッターを切る芽衣。
芽衣「めっちゃ可愛い!最高!!」
愛華「ありがと〜」
晴翔「これ好きだね」
愛華「えへへ」
愛華を下ろすときに皆に背中を向けてましたが、芽衣はすかさずシャッターを切ります。
芽衣「…ちょっとこれは最高すぎるの撮れちゃった…」
晴翔「え?」
芽衣「後で晴翔くんにだけ見せてあげる❤︎」
愛華「もうすぐ出番だから」
晴翔「うん、頑張って」
愛華「明日花火は一緒にみようね?」
晴翔「うん、花火に間に合うように行くね」
・
学祭のメインステージに愛華と晴翔が出てきて1日目終わりの挨拶を行いました。
観客「お姫様!!!僕と付き合ってください!!!」
観客「俺も!」
観客「せめて連絡先でも!!」
愛華の美しさに会場は大騒ぎ。
晴翔はまた人気でるなぁ…と遠くから眺めています。
さゆり「…人気なんだね」
せいや「あんだけ可愛いもんなぁ…」
だいち「でも、いい感じだったじゃん、さっき」
せいや「そーだよ!いきなりお姫様抱っこねだられて!」
晴翔「いや…あれ昔からやってるんだよ」
せいや「幼馴染としてしか見られてないやつか?」
晴翔「傷抉んな。」
さゆり「…晴翔言われたことないの?好きって」
晴翔「…ない」
せいや「一回も?」
晴翔「…何、俺を悲しませたいのか?」
せいや「ごめんって」
さゆり「好きな人聞いたことないの?」
晴翔「…それなんだよなぁ…問題は」
晴翔は昨日のことを思い出します。
さゆり「…いるかもしれないの…?」
せいや「うぇ??まじ??それは辛すぎね??」
さゆり「そういえばあの人とお似合いじゃない?」
さゆりは井間のことを指差しました。
晴翔「…お前さ、痛いところ突くなよ…」
さゆり「え、ごめん」
愛華は井間とのことを隠しているよう。
気になるけど、聞きたくないような気がする晴翔。
ステージ上で身動きが取れない井間と愛華
あまりの騒ぎに井間は、
井間「ちょっと皆さん…落ち着いて…」
観客「もしかして!王様と付き合ってるのか?!」
晴翔「はぁ?!?!」
つい心の声が漏れる晴翔。
井間「…僕たちは王と姫ですよ」
井間はキャラクターを崩すまいと頑張りますが
観客「濁してるってことは!」
観客「おーい!答えろよ!」
観客「えー!付き合ってたら推せるんだが!!」
と、さらに騒ぎが大きくなってしまいました。
痺れを切らした愛華が、
愛華「付き合ってないです。私、婚約者いるので」
…
…
…
…
会場一同「?!?!?!?!?!?!」
その場にいた柚葆と菻と葉子も叫びます。
柚葆「はぁ?!?!聞いたことないんだけど」
葉子「うそやん…」
菻「なんでこんな時に由莉がいないの!」
葉子「え?晴翔くん大丈夫かな?」
菻「あ!向こうにいる!!」
柚葆「晴翔ぉぉ!大丈夫かぁぁ!!」
あまりの驚きにあざと女子を忘れている柚葆。
晴翔はステージの方をみて
晴翔「………」
石のように固まっていました。
晴翔(…あいつもうそんなことまで…いや、井間ってやつじゃないのか?誰だ…???婚約者って??)
葉子「ごめん、本当、私も知らなくて」
菻「じょ、ジョークじゃない?この場をさ、抑えるための?」
晴翔「あいは…嘘つかないよ…」
せいや「…晴翔」
晴翔「…その、婚約者のこと…ちゃんと好きなのかな…親に決められただけじゃないかな…」
こんな時にまで愛華の心配をする晴翔。
菻「あんた。本当、いいやつだよね…」
柚葆「どうする?婚約者の家に乗り込もうぜ?由莉なら知ってるだろ」
だいち「…柚葆ちゃん、なんかキャラちがうね?」
柚葆「緊急事態なんだよ!黙ってろオメーはよぉ!」
もうヤンキーが止まりません
と、隣で菻が思いっきり息を吸います。
菻「愛華ぁぁぁぁ!!!!」
観客の騒ぎをものともしない通る声で、
菻「婚約者って誰よぉ!!
わたしたちに秘密にしてぇぇ!!」
すると愛華は涼しい顔で
愛華「え、秘密にしてないわよ?」
菻「顔知らないよーーー!名前も!!!」
愛華「…しってるよ?」
柚葆「誰だよ!!!」
愛華「隣にいるじゃない。」
…え?
観客の視線が後ろに集まります。
愛華「はる、知ってるでしょ?」
…
…
会場一同「ええええええ!!!!!!!」
晴翔(ぽかーーーん)
柚葆「どう言うこと?!」
菻「本人ポカンとしてるけど!!」
柚葆「早よ説明!!!」
皆の叫びは地響きのようで、
愛華は井間に連れられステージ裏へと去って行きました。
裏方をしていた芽衣もポカンとしてます。
愛華「ごめんね、余計騒ぎ大きくしちゃった」
芽衣「晴翔くん愛華のフィアンセなの???」
愛華「私言ってなかったかしら…?」
芽衣「すごーい!!!なにそれ最高じゃん!!」
テンションが上がる芽衣、愛華の手を取りぴょんぴょん跳ねます。
井間「愛華ちゃん、晴翔くん知らなそうだったけど…」
愛華「あら?そんなことないはずよ…」
ガタッ、ステージ裏のドアが開きました。
芽衣「噂をすれば…晴翔くんじゃーーーん!!」
盛り上がる芽衣の前をすり抜け、眉間に皺を寄せている晴翔。
晴翔「あの。話本当なの?」
愛華「あの話って?」
晴翔「婚約…者が、俺…って」
愛華「え、そうでしょ?」
当たり前でしょ?と言う顔をした愛華。
喉の奥がぎゅっとなる晴翔。
晴翔「…ってことは、俺と一緒にいてくれたのは、俺が婚約者だから?」
愛華「そうよ?」
晴翔「…優しくしてくれたのも…」
愛華「そうよ?」
晴翔の手が震えてしまいます。
晴翔「…愛華。俺のことちゃんと好きなの?」
愛華「…好き…っていうか…」
と、吃ってしまう愛華。
晴翔「それに、昨日の話は何?うまく行くとか、なんとか…」
愛華「あ、だめそれ言っちゃ!」
と井間の方を見る愛華。
きょとんとする井間を見ているといらいらしてしまう晴翔、そして、たまらず
晴翔「…だめだよ、あい、婚約って、ちゃんと好きな人としなきゃ。親に決められた?なんで俺か、わかんないけど。ちゃんと好きな人とじゃなきゃ、あいが辛くな…」
愛華の顔を見ると、ぽつ、ぽつ、と大粒の涙が
晴翔「…あい??」
愛華「…グスッ…忘れちゃったの…」
晴翔「え、何を…」
愛華「…っもうっ、いいっ…はるのばかっ」
晴翔「泣くなよ…」
肩を震わせる晴翔。
晴翔「俺のこと好きでもないのに結婚するとか…俺の気持ち少しぐらい考えろよ!他に好きなやついるくせに!」
晴翔は声を振るわせます。そのまま出て行ってしまいました…
愛華は泣き止み、晴翔の出て行ったドアの方、一点を見つめています。
芽衣はどうしていいかわからず固まっています。
晴翔は拳を握り締め、ステージ裏から出て行ってしまいました。
芽衣「愛華泣かないでよ〜」
あたふたする芽衣。
井間はティッシュを渡し、
井間「ちゃんと、話したの?晴翔くんに」
愛華「わかんないっ、もう」
井間「…なんか、勘違いしてるみたいだね、」
芽衣はあ、そういえばこの2人、いい感じなんじゃないかって話してたな、と今更思い出しました。
芽衣(これって…世に言う修羅場…?)
・
ステージ裏から出た晴翔は
晴翔「あー…わっかんねぇ…」
今までの愛華の言動から、自分が婚約者であることも全く伝わって来なく、好きな人が他にもいそうな雰囲気も出してたのに。
晴翔は座り込んで頭を抱え、
晴翔(忘れちゃったの…って…何を忘れてるんだ俺は…)
どれだけ記憶を辿っても付き合うことになったことも、ましてや好きと言われた記憶も全くない。
コツンと頭に冷たい感触。
ニヤニヤした由莉が冷たいジュースを持っています。
由莉「頭パンクしてるな?」
晴翔「…お前、全部知ってただろ」
由莉「ごめんね、あんたが面白くて、つい、意地悪なことしちゃった」
他の男に会わせたり、井間との写真を送ってきたりした由莉ですが、晴翔は怒っていませんでした。
晴翔「…由莉が俺に伝えることじゃないし、謝ることねーだろ」
由莉「うれしくないの、婚約者になれて」
晴翔「…すげー複雑」
由莉「なんで」
晴翔「俺のこと、別に好きじゃないみたいだし」
由莉「…可愛いこと言うよね〜あんた」
晴翔「…正直、俺は自惚れてたかもな、人に興味ない愛華が、俺といるとき楽しそうにしてて…もしかしたら好きになってくれるんじゃないかなって
なんでか知らないけど婚約者になってた俺に優しくしてくれてただけなのかな」
由莉「お情け…で付き合うような子かしら」
晴翔「でも…」
由莉「愛華が言葉足らずなの、あんたが1番知ってるんじゃないの?」
晴翔「…」
由莉「…世話が焼ける2人だなぁ〜」
由莉は立ち上がって、
由莉「今日、通知荒れまくるけど大丈夫?」
晴翔「は、なんで」
由莉「由莉ちゃんが撮ったスペシャルショット送りつけてあげるから、元気出しなね」
晴翔「…なんだよそれ」
由莉ニヤニヤして、去っていきました。
晴翔「…女ってよくわからん…」
・
愛華のいるステージ裏に入る由莉
由莉「愛華」
わたわたしている芽衣となんとか落ち着かせようとする井間、口を尖らせている愛華がいました。芽衣は救世主が来た…とほっとした顔。
愛華「由莉…」
そっと愛華を抱きしめる由莉。
由莉「よしよし、やだね、怒られて」
愛華「あい、悪いことしてないもん」
由莉「うん、愛華は悪くないよ…でも、私が意地悪しちゃったから、自信無くしちゃって勘違いしてのかも…ごめんね?」
愛華「なんで由莉が謝るの?」
由莉「でも大丈夫、ちゃんと話せるから、明日にはきっと」
愛華「その大丈夫はほんとの大丈夫?」
由莉「晴翔じゃないんだから、私の大丈夫は大丈夫」
そんな2人を見た井間は、何かを察したそう…
井間「へー…なんかドラマみたい」
芽衣「何呑気なこと言ってるんですか」
井間(…由莉ちゃんそれでいいのかな)
危ない帰り道
さゆり「わざわざ送んなくていいよ、疲れてそうだし」
晴翔「夜だし、この辺はあぶねーよ。女1人は」
さゆりは嬉しそうににやつき、
さゆり「婚約…してたんじゃん、よかったね」
晴翔「…よくねーよ、他に好きな人いそうだし…俺のこと…好きでも無さそうだし」
さゆりは立ち止まり
晴翔「どした?」
さゆり「…いつも言ってるけど、もっといい人いるって、大事にしてくれる人、そんな優しい晴翔、大事にされてないのおかしいもん!」
晴翔はふっと笑い
晴翔「ありがとな…でも、大事にはされてる、優しいし、でも、それが好きな人じゃなくて、幼馴染に向けた優しさだった…だけ」
晴翔は悲しそうに笑い、歩き始めました。
晴翔「ごめんな…こんな話、」
さゆり「好きになってくれる人…いっぱいいるのに」
晴翔「ははは、いないよ…そんな俺に」
さゆり「いるのに」
晴翔「ん?」
さゆり「…なんでもない」
晴翔「そう?じゃあまた」
いつのまにか駅に着いていました。
この気持ち今伝えたら、間に合うかな…と思いつつ、今の関係を崩すのは怖い…
さゆり「晴翔も、この優しさは友達に向けて…だもんね」
初夏の生ぬるい風が頬を撫でました。
・
晴翔は家につき、フラフラと自分の部屋に戻ろうとします。
裕翔「おい!今日のご飯は???」
今日のご飯のことなんてすっかり忘れていた晴翔。
晴翔「あ…ごめん、なんか適当に食べて…」
裕翔「なんだよそれ!?!腹減って…」
バタンと、ドアを閉めた晴翔。
裕翔「…にいちゃん…??」
晴翔は今までの愛華との会話を振り返ります。
愛華の友達に紹介されそうになったり、自分の体調心配してくれたり…そもそも、自分のカッコ悪いところ晒しすぎて、好きになってもらおうなんておこがましいことなんじゃないかとどんどん落ち込んでしまいます。完全に自信を失っています。
ピコン
すると由莉から写真が送られてきました。
ピコンピコンピコンピコンピコン
続けてたくさん送られてきます。
晴翔「な、なになに…」
初めの方は友達や知らない男と写っている写真。
晴翔「…くそ、あいつ連れ回しやがって…」
ほとんど表情を変えていない愛華。
そのあと、晴翔と愛華が写っている写真。隠し撮りのよう。
晴翔「…これいつ撮ったんだよ…」
ニコニコして、楽しそうないつもの顔。そういえば、さっきまでの写真にそんな笑顔なかったかも。
最後の写真は、芽衣が撮ってくれた写真だよ、と。
そして、メッセージが、
由莉『こんな顔させられるのあんただけだってわかってんの?』
そこには不意にとられた笑顔の愛華が、
晴翔「俺といる時だけ…笑ってる?」
学祭2日目
次の日、学祭の2日目、最終日。
いつにも増して無表情の愛華お姫様。
井間「…俺のせいで勘違いさせちゃったよね、晴翔くん」
愛華「自分だって女の子と一緒にいるのに…」
井間「…クス」
愛華「…?」
井間「晴翔くんのこと、大好きなんだね」
愛華「好きじゃない」
井間「じゃあ、どう思ってるの…」
愛華「…そういうのは、はるにしか言わないわ」
井間「…かっこいいね」
その頃、柚葆と菻と葉子は由莉に問い詰めていました。
菻「どういうこと。」
葉子「絶対知ってたでしょ」
柚葆「なんとか言わんかい」
由莉「そうだね〜ぜーんぶ知ってたわぁ、中学の時に教えてもらってたわ〜」
とにやにや笑っている由莉。
柚葆「かわいそうじゃん、晴翔くん、あんな頻繁に愛華を他の男に合わせたりして…」
由莉「その後の反応がおもろいからね」
柚葆「鬼なのあんた…」
葉子「面白がってただけじゃないんじゃないの?」
みんな、由莉はノリで生きているようで、世話焼きで優しいことを知っています。
由莉「…面白がってただけ、」
葉子「…そ?」
由莉「みんな心配しなくて大丈夫だよ、愛華と晴翔、あの2人は絶対だから」
急に真面目な顔になる由莉。
葉子「晴翔くん、怒ってたらしいって芽衣から聞いたけど…」
由莉「じゃあ、今日の花火、観察に行くか?」
・
愛と恋のすれ違い
キャラクターの役割が終わり、愛華は着替え、去年晴翔と一緒に花火を見たところに行きました。
晴翔の前で泣いてしまった、バカって言っちゃった、晴翔は来てくれないかもしれない…寂しい気持ちになる愛華。
膝を抱えて一人でうずくまっていると
大学生A「あ!あれお姫様やってた人じゃない?」
大学生B「ほんとだ!」
大学生A「一人なの?ねえ、一緒に花火見ない?」
愛華は見向きもせず。
愛華「…待ってる人いるの」
大学生A「もうすぐ花火始まっちゃうじゃん?ねえ、その人来る間でも…」
愛華に触ろうと手を伸ばします。
パシッ、その手を止める大きな手。
大学生A「…なんだお前」
晴翔「ごめんなさい、俺のなので」
背の高い晴翔に怖気付き、その場を離れる大学生達。
愛華「はる…きてくれたの」
晴翔「約束したから…昨日、怒ってごめん」
愛華(ふるふる)
晴翔は隣に座ります。晴翔は声を震わせながら。
晴翔「…昨日、さ、考えたんだけど…何忘れてるかも思い出せなくて…ごめん、」
愛華「…プロポーズしてくれたじゃない」
晴翔「は?え、い、いつ??そんなこと言った?」
目を丸くする晴翔
愛華「私が…空手辞めるとき言ってくれたじゃない」
晴翔は一旦考え、え?と驚き、まさか、あの時の…
晴翔「…あ、れ??え、小1の頃の?あのこと」
愛華「ちゃんと覚えてるじゃないっ!!」
晴翔「…でもさ、空手は辞める…って言ってなかったっけ?」
愛華「空手は辞めるって、言ったけど…結婚しよって言ったのには、うんって答えたのっ…」
晴翔「……まじ。で」
愛華(コクッコクッ)
晴翔「…そんな…昔のこと…守ってくれてたの…」
愛華(コクッ)
そんな昔から思ってくれてたのか…と嬉しいのも束の間、はっと何かに気付き
晴翔「…そのせいで恋愛してなかったとか…」
愛華「何のこと?」
晴翔「あの。井間って人のこと…好きとかなんとか上手く行くとか…いってたのは…」
愛華「…私に対してじゃないわ…私のお友達とのこと。ちょっとだけ協力してたの」
晴翔「…そ、うだったの」
愛華「それで学祭も引き受けたの、好きな子に協力したくてーって」
晴翔は力が抜け
晴翔「…なんだ…あいが男と喋るなんて、見ないから。」
愛華「いつも思ってたんだけど、何でそんなに心配するの?みんなただ私に話しかけてくるだけなのに」
晴翔「それは…あいのこと、みんな好きになるし…あいがその中の誰か好きになったら…嫌だなって…」
愛華「一番一緒にいるのはるよ?」
晴翔は体をちっちゃくして、
晴翔「好き…じゃない…んでしょ、俺のこと…」
愛華はうずくまる晴翔の顔を覗き込み目を合わせ
愛華「はるのことは好きより…愛してるのよ…?」
晴翔の顔が真っ赤に、唐突すぎてパニックに。
愛華「ずーっと一番大事なの…」
晴翔「ちょっとちょまって、好きな人いないって…」
愛華「好きな人じゃなくて、愛してる人はいるよっ…てみんな最後まで話聞いてくれないの」
なんだよ…とまたへなへなと力が抜ける晴翔。心臓はずっとバクバク。
理系脳の愛華らしいな、と思いつつ。
晴翔「婚約者も、付き合ってる人のうちに入るし愛してる人も…好きな人のうち…だと思う…俺は。」
愛華「…そっか、」
晴翔「それに、」
晴翔は愛華の目をまっすぐ見て、
晴翔「プロポーズは、大人になってから、ちゃんとしたいから。今は彼女に…なって…ほしい…デス」
と、どんどん小声になる晴翔。
愛華「そういうことなら、もう昔からはるの彼女よ、私」
目頭が熱くなり、愛華の言葉に気持ちが込み上げ、ガバッと愛華を抱きしめる晴翔。
ぎゅーっと愛おしそうに強く抱きしめ…はっと我に帰り
晴翔「あぁわわ、ごめん…」
愛華「もう一回」
晴翔「え?」
愛華「もう一回して」
晴翔は耳まで真っ赤になりながらもう一度愛華を抱きしめました。宝物に触れる子供のように。
晴翔「…ずっと一緒にいるのに…大事なことちゃんと言えてなかったな」
愛華「ずっと一緒にいたからかもね」
晴翔「…これからは…ちゃんと言う」
愛華「私も…はる」
晴翔「何?」
愛華が晴翔の顔を覗き込み
愛華「大好き」
晴翔「?!?!?!それはずるいからぁ!!!」
ドーーン、2人を祝福するように花火が上がりました。
愛華「ねえ、私が別の人好きになったら、はるは諦めるの?」
晴翔は眉間にシワを寄せ、顔に『諦めるわけないだろ』と、明らかに書いてあるのに
晴翔「…俺、ずっとあいのこと好きで、本当1番で、あいがいるから、なんでも頑張れて、あいも別の人にそう言う気持ちになったら…他の人で絶対埋めれないの知ってるから…でも俺は生きていけなくなるな、」
と、ブツブツいう晴翔を見てため息をつく愛華。
愛華「…はるは、もう少し頭悪くなった方がいいわね」
晴翔「はい??」
晴翔はいつからなんでも我慢するようになってしまったのか、自分の前ではわがままでもなんでも言ってほしいのに…と花火を見ながら考える愛華でした。
・
その2人の様子を遠くから見ていた由莉と柚葆
柚葆「…よがっだあああ」
幸せそうな2人を見て半べそな柚葆。
柚葆「ってか、葉子はちゃっかり理玖くん誘ってるし、菻は奏だし、芽衣は仕事だし、なんで由莉と花火見てるんだか…ね、由莉…おーーーーい」
由莉「え?」
柚葆「なあにぼーーーっとしてんのよ、私達も男探すわよっ!」
由莉「私は困ってないし」
柚葆「はあ?彼氏はいないでしょ?作んのよ、青春なんてあっという間なんだからね!」
由莉はニコニコしながら柚葆を見て、ふっと愛華と晴翔を眺めました。
由莉「あーあ、私の青春も終わりかなっ」
柚葆「は?なんて?」
由莉「他の心配してる民にも教えてあげよ」
柚葆「おけおけー」
他の3人にも連絡をしました。
花火の音に隠れて、由莉は鼻を啜りました。
もう一つ
花火が始まり、学祭の終わりがきました。そして、愛華と晴翔が仲直りしたと連絡が。
芽衣「…あーー全部成功だあ」
学祭実行委員の準備室で1人、ほっとして伸びをしました。
するとガチャとドアが開く音が。
井間「芽衣ちゃん、お疲れ様」
芽衣「あれ!井間さん?どうしたんですか?」
井間「芽衣ちゃんここにいるかなって思って…はい、」
井間がオレンジジュースを渡しました。
芽衣「わー!ありがとうございます!井間さんもお疲れ様です!本当にお願い聞いてくれて、めっちゃ評判良かったです!それに、愛華と晴翔、仲直りできたみたいですよ!」
井間は芽衣に微笑み返しました。
井間「…よかった…ねえ、俺も、芽衣ちゃんにお願いあるんだけど…聞いてくれる?」
芽衣「もちろんです!なんでも力になりますよ!」
芽衣ははっとして
芽衣「…もしかしてですけど…愛華のことじゃないですよね?」
井間「愛華ちゃん?なんで?」
芽衣「あの。ステージ上で言ってた通りなんですけど…愛華には相手が…」
井間「ははっ!もしかして俺が愛華ちゃん狙ってるかと思った?」
芽衣「ええ、だって愛華がお姫様役引き受けてくれるなんして…ありえないし…仲良さそうだったし…」
井間「愛華ちゃんには、あの幼馴染の婚約者がいるって前から知ってたよ」
芽衣「え、知ってたんですか?」
井間「うん、話してくれた」
芽衣「なーんで私たちには話してくれなかったのかな」
井間「芽衣ちゃん達のおしゃべり早すぎてついていけなかったんじゃないかな?」
芽衣「…たしかに、うちらマシンガントークだ…」
井間「それに、よく話してたの、お互いの恋バナしてたから…」
芽衣「こ、こ、いばな?」
井間「うん…芽衣ちゃんのこと、相談してた」
芽衣「へー、私のこと………ん??」
驚いた顔を見て爽やかに笑う井間。
芽衣「…どゆこと??」
井間「これが芽衣ちゃんへのお願い。」
井間は芽衣を抱きしめて
井間「俺と付き合って?」
普通の子だったら、いきなりの告白に「え?」となるか、抱きしめられたことに照れて黙ってしまうはず…ですが。
芽衣はパッと顔を上げ
芽衣「ほんと!え!めっちゃ嬉しいー!!!付き合おー!!!」
とおおはしゃぎで井間抱きつき返しました。
予想外だったのか、芽衣の勢いがすごかったのか、よたつく井間。にっこり笑い。
井間「ありがとう、よろしくね」
芽衣「うん!ねぇ!写真撮りましょ!!」
おもむろにケータイを取り出しくっついて写真を撮りました。
芽衣「みんなに報告しよ〜!」
はしゃぐ芽衣を見て、井間は笑みを浮かべました。
さっきまで愛華とのこと疑っていたのに…切り替えが早すぎる芽衣。
今までもノリで付き合うことが多かった芽衣、果たして、今回はどうなるのか…
続く