糸をほぐして
大学で授業を受けている時も、愛華のことが頭から離れない晴翔。
昨日…あんないっぱいキスしちゃった…首もすべすべだった…
思い出すだけで頭の中まで沸騰しそう。
次、会う時、どうしよう…普通でいられるかな…
その前に解決しなきゃいけないことが。
晴翔「さゆり」
いつも使っている机にさゆりがいます。
晴翔「昨日、荷物と…お礼、できなくてごめんな」
さゆり「そんなことじゃないでしょ、言いたいことは」
晴翔は口をむっと閉じて隣の椅子に座りました。
さゆり「…昨日…ごめん」
晴翔「あいのこと。ああいうふうに言われて。正直腹立った」
さゆり「…でも、やっぱ納得できない。
ねぇ、なんでそんな、あの子にこだわるの?私だったら家事手伝うし、疲れてるのに迎えに来いとかわがまま言わないよ?」
辛い思いしてる晴翔…見てるの辛いよ…」
晴翔「…俺さ、わざとなの。色々詰め込むの。半分は、わざと」
さゆり「わざと?なんで、休まないと、やってけないじゃん」
晴翔「自分のこと、考える時間、無くしたいの」
さゆり「?」
晴翔「昔、空手やってた頃はそれと勉強頑張ってれば、まあ、なんていうか、自分保ててたけど、なくなって、おかしくなってさ。」
空手で名を上げたことは、自分の自信になってた。今思うと、空手が純粋に好き、ってわけじゃなかったから、続けてなくて、よかったけど。
晴翔「愛華は、俺の時間、埋めてくれるんだ。わがまま言ってるふうに見せかけて。
それに、せっかく向こうも、時間作ってくれるのに、俺が寝落ちしても、怒んないで、」
膝枕してくれたことを思い出して、恥ずかしくなり、せき払いをします。
愛華は、存在価値、示してくれる。あの時も、暗い井戸に囚われている自分を、明るい世界に導いてくれた。
晴翔「だから…愛華のこと、悪く言うな、全部、俺のためだから」
さゆり「…なにそれ…もう」
そんなの、愛じゃん……。敵うわけないじゃん。
晴翔「あと…あの、好きなの?お前。」
さゆり「…こんなふうにバレたくなかった」
晴翔「…全然気づかなかった…ごめん」
さゆり「…謝んないでよ」
晴翔「…俺のこと、そう思ってるなら…2人では出かけらんねぇわ」
さゆり「いいじゃんそれは、向こうだって、男といたじゃん昨日」
晴翔「俺が、いやだから。逆の立場だったら。」
彼女の近くに、彼女のことが好きな人がいるなんて…本当は一番、嫌なこと。
最後に、最後に、一石を投じたかった。
さゆり「私がキスしたのは?なんか言ってないの?あの子」
晴翔「わ、ばか、でかい声で聞くな」
さゆり「どうだったの?ねえ、怒られた?」
晴翔「…怒られたっていうか…あいが…」
晴翔は昨日のことを思い出し、ぶあっと赤くなります。
だめだ。この人の心に私はいない。全く。
さゆり「最悪、私のは人工呼吸器とか思って癖に、今彼女とのキス思い出して赤くなったでしょ?!」
晴翔「な、なんでわかんだよ!?」
晴翔は茹でたタコみたいな真っ赤な顔になります。
さゆり「そういとこ、そういうとこが、好きだった」
私とのキスなんて、覚えてもいないか。前からわかってた。あの子しか見えてないってことなんて。
あの子みたいに、真っ直ぐに思いすぎて、おかしくなるぐらい、愛されてみたかった。あなたに。
でも、あなたも、愛されてたんだね。
さゆり「晴翔」
晴翔「ん」
さゆり「幸せ?」
晴翔「は?」
さゆり「あの子といて」
晴翔「幸せ、だし、あいを、幸せにしたい」
さゆり「…惚気んなばーか!」
晴翔「お前が聞いたんだろ?」
さゆり「うざいから学食のケーキ1年間奢りね!約束もすっぽかすし!」
晴翔「あー忘れた…無理ごめん、3回で勘弁!金ない」
さゆり「仕方ないなあ」
3回で勘弁してあげる。お礼は、もうもらってるから。あなたは、忘れた、それを。
絡まった糸
愛華も、大学に行き、みんなに謝りました。
愛華「ごめんね、昨日…」
菻「まーじで怖かった!!柚葆のヤンキーの時より怖いよ愛華〜」
柚葆「その話出すのはやめようか、うん。」
愛華「井間さんにもありがとうって言ってもらえるかしら?」
芽衣「もっちろん!とりあえず愛華が元気になってよかった!」
愛華「ありがとう」
柚葆「それよりも…あんたも由莉みたいなことして…」
愛華「なんのことかしら?」
柚葆がちょんちょんと自分の首元を指さして、
柚葆「ここのことよ!もー!みんなして!!最近こう言う話しかしてないよ?!」
愛華「…ああ…」
と、首を摩ります。昨日、鏡を見たら赤くなってた。
コンシーラーで隠したけどダメだったのか。
愛華「…これだけ…何もこれ以上話すことないわ…」
柚葆「本当にぃ?」
愛華「ほんとよ」
柚葆「ふーん…」
愛華は髪できゅっと首元を隠しました。
由莉はいつもだったら茶化してくるのに、黙ったまま。
愛華と由莉は、ギクシャクしたまま。
愛華があんなに不機嫌になった理由は、聞けないし、愛華と由莉が若干気まずい雰囲気がして、
みんなは盛り上がりそうな話題をなんとなく探り合ってました。
・
今日は愛華と話せなかったなぁ…と、帰り道。
ピコン、ケータイが鳴りました。
由莉「…さかもからだ。」
坂本からメッセージが。
『この前楽しかった。ありがとう。今度、2人で遊びたいです』
由莉「…飾り気のないなぁ」
何も言われてないのに、突っぱねるのも、よくないよね。
OKの返事をしてケータイを閉じました。
何もしなくても、温かい太陽は温もりをくれ、心地よい。
この生ぬるさに甘えていたい。
ずっと続くなんて思わないけど。
続く