わたしのヴィラン
由莉の部屋から出た愛斗。
次の公演間に合うかな…ギリギリになった…
タクシーを呼ぼうか考えていると、視線を感じます。
その方に顔を向けると
愛斗「…坂本くん…だっけ?」
坂本「どうも」
愛斗「…なんでここに?」
坂本「…帰り道です。さっきまで一緒にいたんで」
愛斗「…ああ」
自分がいないから、坂本を頼ったのかな?
坂本「僕がたまたま連絡したら…泣いてたんで…」
愛斗「…さっき、由莉から聞いた…色々。ありがとうね?話聞いてくれて、由莉ちゃんの」
坂本「元はと言えばあなたにせいですよね?」
愛斗「…僕?」
坂本「あんたが彼女いるのに由莉で遊んでいるから、由莉は壊れたんだろ?」
愛斗「…彼女?いないけど…?」
坂本「…は?じゃあ…キスしたのって…」
坂本は小声になって呟きます。
愛斗「…由莉ちゃんとはそれ以上もしてるし…」
坂本は愛斗を睨みます。
愛斗「…それにもう、君が心配することないよ」
坂本の肩を抱き寄せて、耳元で。
愛斗「僕が幸せにするから」
坂本の肩をぽんとたたき、呼んでいたタクシーに乗ろうとすると
坂本「あなたは」
愛斗が足を止めます。
坂本「…由莉が他の人、好きってわかってて…ずっと好きでいれたんですか?」
愛斗がむーっと考えて
愛斗「…さあね、僕もこの前まで彼氏いたし…何人も恋人いたよ?…でも、由莉ちゃんは特別」
ウインクをしてタクシーに乗り込みました。
坂本「…なんか…つかめない人」
自分が見てきた由莉は、本当に一面だけだったのかな。
晴翔が言っていたように、昔より本当にややこしくなっている。
ここで感情が振り回されている自分じゃ、力不足なのか。
そばにいる愛斗は、あんなに余裕そうなのに。
由莉に振られた悲しさから、心がすーっと乾いて行くような…
坂本はケータイを取り出し、
坂本「…晴翔?今空いてる?…ちょっと話聞いてくれよ……」
気づけば夕焼けが坂本の背中を照らしていました。
・
ガチャ…夜中、愛斗が帰ってきたよう。
愛斗「…ただいま、由莉ちゃん」
ベットで横になる由莉。疲れて寝ちゃったのかな。おでこに優しくキスをしました。
愛斗「…由莉ちゃんの気持ち…愛華から離れたの…嬉しいとか思ってごめん…」
由莉の頭を撫でて、そっと心の声が漏れます。
愛斗「…僕のものに…しちゃだめかな…」
由莉の唇を親指でそっと撫で、唇を重ねようとすると
由莉「ダメじゃない」
愛斗は由莉の顔を見ると、少しうるうるした瞳と目が合いました。
愛斗「起きてたの?」
由莉「…キスで起きた」
愛斗「…眠れる森の美女だね」
愛斗はさっきの独り言も聞かれた…と、誤魔化すように立ち上がろうとします。
由莉「好きなの?」
由莉の言葉に足を止めます。
由莉「私のこと…好きなの?」
愛斗「…由莉ちゃん…」
由莉「うん」
愛斗「…ごめん…わかんない、好きってわかんない…」
由莉「…そっか」
愛斗「ただ…由莉ちゃんの…心まで…全部欲しい」
あの目だ…獲物を狙うかのようなギラついた目。長い前髪の隙間から控えめに覗かせている。
由莉は愛斗を真っ直ぐ見つめ…
由莉「あげる…もらって」
愛斗「…ほんと?」
由莉「…私も…普通の好きって…わかんなくなって、いらない…とも思って…。」
愛斗と腕を掴み、
由莉「他の人のは…もういらないの。愛斗君のが欲しい…わがまま…だよね」
愛斗「わがままじゃないよ?嬉しい」
僕も、ちゃんと本当のこと言うね、
と、手を握り直して。
愛斗「…僕ね…実は初めて会った時から…由莉ちゃんが欲しかった」
由莉「え?」
愛斗「…由莉ちゃんのこと、慰めるふりして、僕が助けられてた。
日本でこの仕事受けたのも、由莉ちゃんに会いたくて、触れたくて…」
由莉の手を握る手が震えています。
愛斗「でも…僕の恋人…みんな壊れてくの…だから…由莉ちゃんに…思い伝えるの…怖かった。伝えなければ…離れてくって思ってたけど…由莉ちゃんは…今もそばにいてくれてる…その優しさに…甘えてた」
愛斗は恥ずかしくなって目を逸らします。
愛斗「…年下の女の子に甘えて…僕の方がダメ人間だよ」
由莉「…愛斗くんの力に、なれてたの?私」
愛斗「由莉ちゃんの顔見ただけで、幸せになる」
こんな甘い声が、私に向けられている。愛斗は由莉の頬を撫で。
愛斗「最近、僕から
由莉「…頼りっぱなしだから…何もできてないのに」
愛斗「いるだけで、十分、だから…安心して?離れらえると…寂しい。」
由莉「また、寂しくていきなり呼んじゃうかもしれないよ?」
愛斗「そしたらすぐ飛んでくる、僕なしで生きてけないみたいでかわいいじゃん」
由莉「…めんどくさくない?本当に」
愛斗「かわいい由莉ちゃんのお願いだよ?幸せじゃない?求められて」
愛斗は異世界の人なのか。今まで過ごしてきた世界よりも、息がしやすい。
由莉「…私みたいな、年下には、興味ないかと思ってた」
愛斗「興味ないわけないでしょ、由莉ちゃんみたいないい女」
愛斗は両手で由莉の頬にそっと触れます。
ついつい固くなる由莉、愛斗はおでこをくっつけて目を閉じます。
愛斗「嘘みたいだなぁ…由莉ちゃんが手に入っちゃうなんて」
由莉「そんな、大袈裟よ」
愛斗「心まで絶対手に入んないって思ってたから…」
愛斗は由莉を抱きしめます。
愛斗の胸に耳を当てると、ドキドキと速い鼓動が伝わってきます。
由莉「愛斗くん、めっちゃドキドキしてるけど…」
愛斗「…聞かれないようにしてたの、ずっと」
愛斗の顔が見たくてもぞもぞしますが、
愛斗「だめーっ、うごいちゃっ」
さらに強く抱きしめられます。
由莉「痛い〜」
愛斗「いたい?」
少し力が緩まると、
由莉はぱっと顔を上げ、愛斗の顔を見ます。
今まで見たことない、愛斗の恥ずかしそうな余裕のない表情が。
由莉はドキッとします。
愛斗「…なぁに…」
由莉「…う、ううん…なんでも…」
どうしよう、今まで、色々してきたのに、なんか緊張する。
愛斗「…眠い?」
由莉「…眠くない」
愛斗「…ちょっと待っててね、シャワー浴びてくる」
由莉「待って」
愛斗「ん?」
由莉「一緒に行く」
愛斗は何かを抑えるかのようにふーっと息をついて、由莉を抱き上げます。
ひょいっとお姫様抱っこされて、
由莉「まって!重いでしょ!」
愛斗はそのまま由莉の口を塞ぎました。
愛斗「好き、一緒に作ろっか」
他の人から見たら、依存しあってるダメな2人。普通の世間の意見では。
でも、それが普通の世界から私を連れ去るヴィランと、
見たことない世界が見たいのです。
続く