正義の味方
坂本「…泣き止んでた…よかった」
由莉の家の外でまできてくれた坂本。走ってきたのか、息が上がっている。
少し移動して、近くの公園に行きました。
坂本はあったかいコーンスープを差し出します。
あつっ、中は思った以上に熱かった。
そして、ぽつぽつと話し始めました。
由莉「…友達と喧嘩…っていうか、嫌われちゃって…」
坂本は愛華の友達でもあるので、名前は伏せようと思いました
坂本「泣くほど…大きい喧嘩?」
由莉「…好き…だったの、その人のこと」
坂本「…え?」
坂本は愛斗のこと…?愛斗と喧嘩したのか?と思います。
由莉「その人、恋人がいるの」
坂本「…え?恋人…?」
あの金髪の女の子かな…と夏樹のことを想像する坂本。
由莉「幸せそうで、嬉しいよ?全然。でも、私に、正論、ぶつけるの、で、腹たったの」
坂本「それで?」
由莉「…キスした」
由莉は一口コーンポタージュを飲みました。
さっきまで熱かったコーンポタージュはいつの間にか冷たくなっていました。
坂本「…は?なんで」
由莉「わかんない、腹たったから」
坂本「腹たったから…そんな…そんなんでキスしちゃダメだよ…」
坂本と由莉が付き合ってたころは数えるほどしかキスしなかった。
由莉「…だって、私、寂しかったら、誰とでも寝れるんだよ?」
坂本「やめて!」
険しい顔で声を荒げます。
坂本「由莉のそういうの…想像したくない…」
由莉「ごめん…でもね…私。そういう人だから」
坂本「間違ってるって!恋人いるやつと、そんな気持ちで一緒にいるなんて…意味わかんねーよ!」
由莉「…なんでダメなの…?」
愛華への想い隠して、一緒にいたのが間違いだって言うの…?
やっぱり、好きになった私が悪いんだ…本気で人を愛そうとすると…こうなっちゃうんだ、私。
でも…愛斗は、愛華のこと好きな私を、認めて、包み込んでくれた…
由莉「さかもは…正義の味方だもんね」
坂本「…何が?」
由莉「さかもは正しい。でも、それは私欲しくない」
坂本「普通の感覚に戻って欲しいから」
由莉「元々…だし…なんで…普通の感覚になんなきゃいけないの」
坂本「好きだからだよ!」
由莉「…は?」
坂本「そんなやつ忘れて、俺と付き合って、もう一度」
吐き捨てるような告白。これは、言わせてしまったな…
由莉「ごめん…もう、甘えたくないから…無理」
坂本「…甘えていいんだって」
由莉「私の全部、本気で許せるの?私の普通はずっと、さかもの非常識だよ?」
坂本「できるよ、全部忘れて、昔みたいに…」
由莉「付き合ってた時も、その人のこと、私好きだった」
坂本はサーっと身体中の体温が逃げていく感覚が
傷つけるから…言いたくなかった、でも、本当のこと黙ってて、引きずらせる方が残酷だ。
もう、嫌いになって、私のことなんて。
由莉「来てくれて…ありがとう、慰めてくれて。…付き合ってた時も、自分が純粋な恋できてるってとっても楽しかった。これは、ほんと。傷つけて…ごめん。」
坂本「…ごめん…」
由莉「…ねえ、私が振られたみたいになってんじゃん」
精一杯の笑顔で坂本に別れを告げた。
坂本の啜り泣きが聞こえた気がする。傷つけてごめん。
私の茶番に付き合わせて……ごめん。
・
自分はやっぱり普通の恋はできないんだと痛感しました
普通な恋をするには、自分を正しさで固めなきゃいけない。
私がそれを続けられる?
続けられなかったから…別れたんだわ、坂本と。
愛華や坂本みたいに『正しい人』には、私は救い出す対象なんだろう。
私は、わがままだから、救うじゃなくて、寄り添ってほしい。ダメなこと、無駄なことってわかってても、全部包み込んでくれる優しさが欲しい。
家に入ると、愛斗の靴が、急いで中に入ります。
由莉「愛斗くん!?」
愛斗「おかえりい、出かけてたの?」
由莉「今日舞台…だよね?」
愛斗「そう〜忘れ物しちゃって〜とりに…」
愛斗は由莉の顔をじっと見て、ゆっくり近づいてきます。
少し眉が下がった優しい顔で、由莉の頭をそっと撫でました。
あったかい…
その温かい手はだめな私をまた包み込んでくれる?
由莉「愛華に…キスした」
一瞬頭を撫でる手が止まり、ゴクリと唾を飲み込む音が聞こえた。
愛斗「…諦められなかったの?」
由莉「…いや…もう、好きだからじゃなくて…多分、傷つけるために…しちゃった…」
もう、頭の中がごちゃごちゃ。
大好きな友達をわざと傷つけるとか…終わってる。
愛華とか、坂本とか、綺麗な恋愛をしてる人を見てると、自分が惨めになる。
ただ、自分のこと、愛してほしいだけなのに…
自分の心を誤魔化し続けたからこうなったのかな…
今、目の前に、自分を認めてくれる、優しくしてくれる人に依存して…迷惑かけてる…
自分は1人で生きていくしか無いのか。
愛斗「…由莉ちゃん?」
由莉「ごめん、大丈夫。」
愛斗「…でも」
由莉「間に合わなくなるよ、みんな、待ってるでしょ?」
愛斗「…キス…間違ってしちゃったんだね?」
由莉は涙がこぼれないように上を見て。
由莉「腹…たった」
愛斗「うん」
由莉「みんなは、好きな人と普通に幸せになれるのに…」
愛斗「…うん」
由莉「私は…普通じゃないから…ちゃんと与えて、与えられてって…できない」
愛斗「由莉ちゃんは、与えなくていい」
由莉「…だめ、離れてくでしょ?」
愛斗「離れない」
由莉「…みんな…離れてっちゃうもん…」
由莉の瞳から溜まりに溜まった悲しい雫が溢れ落ちました。
愛斗は唇を噛み締め苦しい表情のままガッと由莉を抱きしめます。
愛斗「…黙って愛されてればいい。ごちゃごちゃ考えんな」
力強い腕、全て預けてよ、と訴えているかのよう。
由莉はまだ、声を震わせて。
由莉「そんなの…依存でしょ…一方的に」
愛斗「それがなに?だめなことなの?」
由莉「…迷惑になる…」
愛斗「…迷惑って言った?僕」
由莉「…いってない…」
愛斗「…なら……わかってよ」
愛斗は時計をチラッと見ました。
愛斗「ごめん…また、帰ったら…」
少し勢いよく部屋を出て行きました。
由莉「…あったかい…」
絡まった糸が解けるように、温かい涙が由莉の頬を撫でました。
続く