愛華「くしゅん!」

昨日はいつの間にか部屋のベットにいた。

今日も晴翔とおしゃべり…返してくれないけど。

愛華「はるー今日も来たよー!」

今日も、寝てるかな…返事ないや。

晴翔「風邪ひいてない?」

かすかに聞こえた晴翔の声。

少し元気になったのかな!嬉しくて、たくさん話したいことが…

晴翔「もうこないで」

さっきまでの高揚が一気に冷めます。

愛華「…あいとおしゃべりしたくない?」

晴翔「…一緒にいない方がいいから」

愛華「どうして?」

晴翔「…恥ずかしいでしょ、こんな、弱い男、そばにいたら…」

頭でぐるぐる考えていたことをいざ言葉に出すと余計に刺さるものが。

愛華「…なに…言ってるの?」

しばらく沈黙した。

晴翔「…あいは俺が可哀想な幼馴染だから、様子見に来てくれるんでしょ」

愛華「…違うわ?あいは…」

晴翔「この先、俺と一緒にいても…恥ずかしいだけだよ?」

愛華「どうして?」

晴翔「壊れてるんだよ…俺
   …脳の病気なんだって。
   仕事も、勉強も…普通の生活も…できなくなるかもしれない…これからも…
   周りから、あいまで変な目で見られる…」

晴翔はコツンと窓に頭をつけて。
本当に消えそうな声で…

晴翔「…もう、俺に関わらないで…」

自分で言った言葉なのに…ボロボロと涙が溢れた。

愛華に会いたい…でも…

愛華「小学生の頃…覚えてるかしら?」

晴翔「…小学生?」

愛華「5年生かしら。あい、同じこと、はるにいったわ」

愛華は小学生の頃。
父親は仕事、母親は海外、兄もバレエで留学。
お手伝いさん数人と過ごす生活が始まりました。

愛華「あいのこと、嫌いだからみんないなくなっちゃうのかな…」

それまでもあまり喋るタイプじゃない愛華でしたが、
さらに無表情になっていきました。

学校でも、元気な晴翔はクラスでも友達たくさんで、人気者。
愛華はなかなか友達ができません。

晴翔「あいー!一緒に帰ろ!」

愛華「………」

人気者の晴翔と一緒にいるのを避けるようになりました。
それでも。

晴翔「あい!おはよ!」

晴翔「一緒の委員会やろ?」

晴翔「あい〜休み時間あそぼーよ」

いくら避けても晴翔は話しかけてくれます。

流石にやりすぎたのか、ある日。

晴翔「…あい?俺と遊ぶの嫌?」

晴翔は怒られ待ちの犬のように困った顔をしています。

愛華「そんなことないわ」

晴翔「じゃあ、どうして一緒にいてくれないの?」

愛華「…あいともう、関わらないで…」

晴翔「なんで?」

愛華「あいといても、はるが恥ずかしい思いするから。」

晴翔「するわけないじゃん、何言ってんの?」

愛華「…人気者のはるがあいと一緒にいたら、他のお友達に変に思われちゃう」

晴翔は愛華の腕を握り。

晴翔「人気者でもそうじゃなくても、あいはあいだろ?
俺が愛華といたいの、ずっと」

しかも、愛華も人気者…って言うか男子からモテモテで、女子も近寄り難いだけなんだろうけど…と晴翔が考えていると。

晴翔「?!?!あい?!?!」

愛華は家族と離れ寂しい気持ちと、学校でうまくいかない不安が溢れてぽろぽろと涙が出てきました。

それでも

晴翔は、ずっといてくれるんだ。

晴翔「泣かないで??…はっ!俺がそばにいるのやだった…??」

友達A「あー!晴翔が愛華ちゃん泣かせたー!」

友達B「いーけないんだー!」

晴翔「わー!見るな!」

愛華は晴翔にぎゅっと抱きつき。

愛華「あいも、ずっとはるのそばにいたい」

晴翔は顔が真っ赤になりそのまま固まりました。

友達A「わー!!晴翔がいちゃいちゃしてる!」

友達B「ひゅーひゅー!!」

そのあとしばらく冷やかされましたが、なんとなく嬉しい愛華でした。

拒絶しても、心の中に飛び込んできてくれたことに救われました。

愛華「はるは、あいがクラスで浮いてる子でも、一緒にいてくれたの。
それは、可哀想だから?」

晴翔「違う…」

愛華はゆっくり、心まで伝わるように話します。

愛華「はるが、脳の病気でも、心の病気でも、はるは、はるなの…関わらないでなんて、言わないで…悲しい…」

愛華は窓に手をついて、

愛華「…お顔…見せて?はるに…会いたい」

 

ガラガラガラ…

晴翔「あい…」

無造作伸びた髪が目元を隠しているが、微かに揺れている瞳が覗く。
頬が少し痩けて、唇も乾いている。
一回り薄くなった身体。

愛華「…はる!!」

愛華は勢いよく晴翔の懐に飛び込みます。

晴翔「わ!ちょ!!」

晴翔はよたついて、愛華をしっかりと抱きしめたまま、よろりと尻餅をつきました。

布越しでもわかる。前よりも骨っぽくなった。

でも、晴翔のあたたかさは変わらない。

晴翔だ……

愛華「…はる…」

愛華は晴翔の胸元に顔を埋めて、スリスリと涙を擦り付けます。

寂しかったんだから。

と言わんばかりに強く晴翔を抱きしめます。

愛華が、いる。
自分の腕の中に。

冷たい沼の底から一気に引き上げられ、そのまま太陽まで引っ張り出された。

身体中が熱い。

久しぶりの人の温もり。
しかも、愛華の。

今まで動いてるのかどうかすらわからなかった心臓が、急に頭角を現し、ドクドクと熱を運びます。

触れていいものなのかと、手のやり場に困ります。

すんっ…愛華の肩が震えました。

愛華も、不安だったかな…

心配させてごめん。

両腕で華奢な愛華を抱きしめました。

久しぶりにベットから起き上がったからか、ただ抱きしめているだけなのに、眩暈がしてきました。

力が抜けて、

愛華「…はる?大丈夫?」

晴翔「………」

愛華「横になりましょ?」

見渡すと、いつもきちんと整頓されている部屋がぐちゃぐちゃに散らかっていました。

これ、晴翔が…

愛華は晴翔の腕をバッと捲りました。

晴翔「何?」

よかった、傷はない。でも、細くなって…

晴翔「…弱ってるところ…見られたくなかった…」

愛華「あいは、はるの全部見たい」

晴翔はベットに倒れ込み、ぼそっつぶやきました。

晴翔「…最近、やなこと多くて。疲れた…かも。」

愛華は頷きながら耳を傾けます。

晴翔「空手だって、家計、助けるために辞めるのに…
   本気でやってないとか、腰抜けっていわれるし…サボるなって言われるし…
   なんか。ぐちゃぐちゃ考えちゃって…
   なんのために頑張ってきたか…わかんなくなって…」

腕を目に当てながら、かすれた声で話す晴翔。

愛華「毎日部活で、頑張って、優勝して、お勉強も、学年で10番以内で、お家のこともできて、完璧にこなしすぎて…それは、疲れちゃうわ?」

晴翔「…人によく見られたくて、かっこつけてたから、自業自得だけど…」

愛華「そうよ、あいのことだけ考えてれば他の人に何言われたって気にならないでしょ?」

違うよ、愛華。愛華のこと考えすぎてるから。

住んでいる世界が違うから…愛華の隣に立つには完璧でいなきゃいけない。

愛華の周りの大人は許してくれないよ?

完璧じゃなかったら、幼馴染のままでしかいれない。

晴翔「あいだって…」

晴翔は布団を口元まで深く被り。

晴翔「…あいだって…大人になったら遠く行っちゃう…」

愛華「いかないもん…」

愛華は拗ねたように口を尖らせて、

愛華「晴翔は…宝物だもん…」

晴翔の顔を覗いてみると、すやすや眠っていました。

ひさしぶりにおしゃべりして疲れたのかな。

頭を撫で、

 

ちゅっ

 

おでこに優しくキスをしました。

続く

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