現実

家族にご飯を作るのは晴翔の担当。
部活から帰り、疲れていてもみんなのために作っています。

今日も、ちょっと体調悪いぐらいではサボりません。

裕翔よりも帰りが少し遅いので、お腹すいたと文句を言われます。

テキパキといつも通り作った…つもりでしたが。

裕翔「しょっっっぱ!!」

晴翔「え?」

味噌汁を飲んだ裕翔が顔をしかめています。

裕翔「めっちゃしょっぱいんだけど…」

晴翔「…うそ」

晴翔も飲んでみると、味噌の味がガンッとくる味。

晴翔「やべ、2回入れたかも…お湯入れる?」

裕翔「んー、おかずとしてならしょっぱくねーから」

そう言ってお米をかき込む裕翔。

なんやかんや優しい弟。世間ではツンデレっていうのだろうか。

そこに母親が帰ってきました。

晴翔「おかえり。味噌汁ちょっとしょっぱかったから…ちょっと待ってね」

晴翔の母「ありがとう〜、今日も愛華ちゃんと帰ってきたの?」

晴翔「なんで」

晴翔の母「ううん、ずっと仲良いなーって思っただけよ」

晴翔「…そ」

晴翔がちょっと恥ずかしそうにしているの見ながら、裕翔がにやにやしご飯を一口。

晴翔の母「まあ、一緒にいられるのももう少しかもしれないしね」

晴翔はピタッと手を止めます。
裕翔も箸を加えたまま母親を凝視します。

晴翔「…なんで」

晴翔の母「だって、将来はお家柄のいい男性と結婚するんでしょうよ、晴翔と遊んでいられるのももう少しだなーって」

裕翔は不服そうな顔をして

裕翔「…にいちゃんだって頭いいし、強いし、負けねーだろ。
一生守っていけるのにいちゃんしかいねぇよ」

晴翔「…や、うん、ありがと」

裕翔のまっすぐな言葉に照れ臭くなります。
すると母親が笑いながら。

晴翔の母「一生って〜、晴翔、本気で愛華ちゃんと結婚したいと思ってた?」

晴翔「え……や…」

晴翔の母「ふふふ、小さい頃はよく言ってたわよね〜懐かしい」

晴翔「……」

母親はいつも正しいことを言う。
正しいからこそ、耳が痛い。

振り向いてもらえてないのも事実だし。
いつもならヘラヘラ笑って返せるのに。

裕翔が心配そうな顔を向けます。

裕翔「…にいちゃん…?」

晴翔「…そう、だね。今のうちに、遊んだかないと」

晴翔はなんとか作り笑いをします。

裕翔「にいちゃん!」

晴翔「風呂洗ってくる」

味噌汁を注いで、母親に渡し。
足速にリビングを出て行ってしまいました。

お風呂から上がり、部屋でパラパラ参考書を眺めていました。

愛華と自分が、釣り合う訳ないなんて、わかってる。
向こうは日本で屈指のお嬢様。
庶民の自分が入り込めないことなんて…わかりきったことだから、考えないようにしてた。

そうしなきゃ、何のために生きてるか、わかんなくなるから。

…愛華の側に居られなくなったらどうしよう

と、本当に耳の中が痛い、ピコーン…と耳鳴りが

晴翔「…ゔっ」

頭に響き、吐き気がする。

裕翔「にーちゃん、にーちゃん」

ドアを叩く音がした。
全部頭に響いて、ドアの近くまで行くのもしんどい。

晴翔「…いいよ、入って」

裕翔が半分だけドアを開けて、何やらボソボソと話している。

晴翔「…え」

裕翔の声が聞き取れない。
雑音が多くて、

晴翔「…ごめんもう一回」

裕翔が顔をしかめて、また、話し始めたよう。

プールにいる時みたいな、それよりも音が頭の中で反響して立っているだけで辛い。

裕翔「…聞いてた?」

晴翔「……あ…いや…ごめん、疲れたら寝るね」

裕翔「え、ちょ」

晴翔「おやすみ」

ただ、疲れてるだけだ。そう、疲れ。

…おかしくなってる?

晴翔はカーテンを勢いよく開けて外を見ます。

愛華の部屋、電気消えてるよな。

ポケットに入っていたケータイを取り出し、
おそるおそる、愛華に、電話をかけます。

ツー、ツー…

晴翔「…出ないよね」


続く

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