高校最後の試合中。初戦で体調を崩して入院中の晴翔。

晴翔はベットの上でTwitterを眺めます。
自分の記事が流れてきました。

『高校生空手王者、一回戦でまさかの敗退』
『手も足も出ず』

晴翔「…辞めるし…どうせ」

 

積み上げたもんって一瞬で崩れるんだな。

 

眠れない夜を終わらせるために無理やりに目を閉じて、

考えが巡らないように音楽をかけ、イヤフォンをしました。

 

前兆

 

高3になって始めの方。ある日の夜中、目を覚ました晴翔は不意にリビングを覗きました。

晴翔母「裕翔の空手の実力。この高校でトップになれるレベルだって…言われたらしいの」

晴翔父「そうだなぁ…晴翔も、そのぐらいあるだろうな、本当は」

チラッと見えたのは、スポーツが有名な私立高校。
行けるなら晴翔も行きたかった。

晴翔母「でもね…今のうちじゃ通わせられないものね…」

 

晴翔父「子供の夢、追いかけさせてやるのが親だろ?」

 

晴翔母「無理言わないでよ、私だってフルで働きたいけど、家のことどうするのよ?晴翔の大学だって…」

 

晴翔父「だからって裕翔の将来考えたら」

 

晴翔母「もっと現実見てよ!」

 

最近、父と母の喧嘩が絶えない。

お互い仕事で疲れているんだろう。

一般家庭が、子供を大学に入れることが、そう簡単じゃないことぐらい、知っている。

 

晴翔「父さん、母さん」

 

晴翔はリビングに顔を出しました。

 

晴翔母「晴翔…起きてたの」

 

晴翔はボソボソした声で

 

晴翔「…いいよ、俺、空手辞めるから…大学も国公立にする、家のこと…やるよ?」

 

両親の顔に驚きの裏に安堵が見えた気がします。

 

晴翔父「六花大…行きたかったんじゃ無いのか?」

 

愛華と由莉と行こうって約束してたけど…授業料もバカにならないし。推薦、取れたとしたって。空手も、なくちゃ生きていけないってこともない。

 

晴翔「うん、大丈夫。空手、もう、十分やってきたし…大丈夫」

 

愛華と、同じ大学。行くの夢だったけど。

仕方ないこと。自分は、こうすべき。

そう言って、自分の思いに蓋をした。

 

 

教師A「え?六花やめるの?」

 

晴翔「…はい」

 

担任との面談。

推薦の話もあったので、早め言うべきだと考えた晴翔。

 

教師A「まじかよ…なんで」

 

晴翔「空手…もういいし、どうせなら、もっと上目指そうかな…って」

 

仕方ない…ことだから。俺ばっか好きなこと言ってらんない。

 

教師A「六花強豪だからびびってんのか?」

 

晴翔「いや、別にそう言うわけじゃ…ほんと、空手は次の大会で、終わりでいいので」

 

教師A「はは、冗談だって、金山の成績なら、全然、国公立いけるし、頑張れ」

 

晴翔はホッとした。

そうだよな、何も、間違った道に進むわけじゃない。

そうだ。大丈夫。頑張ってれば。

 

 

晴翔は部活の終わりに、鍵を戻しにきました。
職員室で、教師が何やら話をしています。

教師B「え?金山くん六花行かないの?」

どうやら晴翔の話題。
晴翔はドアに耳を当て、盗み聞きします。

 

教師A「ほんとな…がっかりだよな…」

 

教師B「推薦だって取れるじゃないか…?次の試合次第だけど」

 

教師A「まあ、国公立行く学力もあるしなぁ…」

 

教師B「…まあ、本気で空手の道進まないならやってても頑張ってるやつに失礼だもんな」

 

教師A「それなら本気でスポーツやりたい子に推薦やりたいしな」

 

教師B「ほんとな」

 

教師A「六花強豪だし、ビビったのかな、最後の試合も終わってないのに」

 

教師の乾いた笑い声が耳の奥をじわじわ蝕んでいきます。

晴翔は後退りし、職員室に入れませんでした。

 

 

あ、鍵、返さなきゃなのに…少し経ってから…
でも…顔合わせるのが怖い…
何か…言われるんじゃないか…

 

坂本「お!晴翔鍵返しにきたの?」

 

廊下で坂本に会いました。
晴翔はもっていた鍵を坂本に押し付けます。

 

坂本「え?返してなかったの?」

 

晴翔「…ごめん、一緒に戻しといて」

 

晴翔は足速に去っていきました。

俺だって…推薦、とって、六花行きたかった…
でも、選手になるほど、本気でやってなかったのも事実だ。
裕翔みたいに、本気で目指してるやつに、敵うわけない。

何がしたいんだっけ…俺。

何やってんだ?……

喉の奥が詰まる感覚。

 

…何のために…生きてたんだっけ?

 

 

 

 

 

 

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