晴翔はベランダの窓の鍵を開けておいてくれた。
愛華は小1の頃に晴翔に「結婚しよう!」と言われてから、自分は晴翔の婚約者だ。
と思っている。
(ちなみに、晴翔は、そのことをこの頃は知らない。
晴翔は小学生の思い出と思っており、愛華はガチで受け止めている。)
愛華はこれだけ一緒にいるし、わざわざ好きと言わなくても伝わってるはずなのに…
晴翔は指一本も触れてこない。
由莉みたいに大人の魅力がないからか…
幼い頃からずっと一緒だから、そういう雰囲気にならないんじゃない?
と、由莉に言われた。
(由莉は愛華と晴翔が勘違いしていることを知っているが言わない)
確かに、小さい頃はくっついて寝たり、手繋いだり、普通にしてたけど。
今は…なんとも言えないむず痒い気持ちになる。
晴翔も、私に少し触れるだけで飛び跳ねてのけぞる。大袈裟なまでに。
キスしたらどんな顔するのかしら
可愛らしい寝顔。昔から変わらない。
この顔を見れたらこっそり。
ちゅっ。
ほっぺにキスしてみてる。晴翔は気づかない。
愛華「…起きないわ」
すやすや眠る晴翔。
前よりも穏やかな気がする。
頬をするっと撫でると
にこっと気持ちよさそうに微笑む晴翔。
愛華「…かわいい」
もっと可愛い顔が見たくて、すりすり頬を撫でていると
ガシッ
っと腰に手が回り、
愛華「きゃ!」
ベットの中に抱き寄せられました。
晴翔の中にすっぽり包まれました。
愛華「…はる?」
すー…すー…
晴翔はまだ寝てる。
愛華は腰のあたりに冷たい感触に気づきました。
抱き寄せられましたときに、服に手が入って…
晴翔「…あれぇ?愛華が…いる?」
まだ寝ぼけてる晴翔。寝言をむにゃむにゃ。
晴翔はさらに愛華を近くに抱き寄せて、愛華の首筋に顔を埋めて、頬擦りしました。
ビクッと
晴翔の手が愛華のお腹をなぞります。
晴翔「…いい夢…やわらか…」
恥ずかしくなり晴翔の肩を掴み、グラグラ力強く揺らします。
愛華「起きて!起きて!」
晴翔「…ん………わぁあ!!」
晴翔は飛び起きて後ろに吹き飛びました。
晴翔「ごめん!何かした…?俺?」
愛華も顔を赤くして、お腹をおさえて。
愛華「…あいのお腹ぷにぷに触ってたー…」
晴翔は驚きと焦りで言葉を失ってぱくぱく…
晴翔「ごめん!!気持ち悪かったよね…ごめん怖い思いさせて」
愛華は首を振りました。
愛華「はるのこと、気持ち悪いなんて、思うわけないじゃない。
…恥ずかしかっただけよ」
晴翔「…ほんと?」
愛華「…はるは…気持ちよさそうだったわ?」
晴翔は真っ赤になって、膝を縮こませ、ぼそっと答えます。
晴翔「…そりゃ…あい…だもん…」
愛華「…そうなの?」
晴翔「…好きな女の子に、触れたら嬉しい…」
晴翔は普段だったら口走らないのに、口が勝手に…
何言ってるんだ、と、愛華から目を逸らすと、
晴翔の上によじ登る愛華。
晴翔「え?あ、ちょ…!」
愛華「はるが…嬉しいなら、何されてもいいわよ?」
晴翔「自分が、な、何言ってるかわかってる?」
愛華「…わかってる…」
愛華の香りが鼻をくすぐり、いつもより艶っぽい瞳がまっすぐ見つめてきます。
頬にに触れると、愛華はフッと目を閉じます。
やば、こんな顔、するんだ…あい。
理性と本能が頭の中で爆発しそう。
晴翔はぎゅっと目を瞑り
晴翔「…だ、だめ!!」
自分に言い聞かせるように、
晴翔「な、流れで、そういうことしないから…」
愛華の肩をそっと押さえて、起き上がる晴翔。
愛華は少し拗ねたように、
愛華「…あいじゃうまくできなそうだから?」
晴翔「…は?」
愛華「あい、大人っぽくないし、なんもわかんないもの…」
晴翔「違う違う、大事にしたいから!」
愛華はどこまで煽るんだ…
慣れないことして…
危なかしい。
今のこの、正常に判断できない脳みそじゃ、全く…何をしでかすか。
愛華「はるが教えてね」
俺が、教えていいんだ。
愛華の一言一言に反応してしまう。
そういう目で見てないわけじゃなかったけど、いや、そういう目だけで見てたわけじゃないけど。
しようと思えばできるんだ。
おい、なんてこと考えてるんだ。
脳みそを湧水か何か清いもので丸洗いしたい。
愛華がこだわらなくても、ちゃんと付き合って、同じ気持ちむいてからじゃなくちゃ、晴翔自身が後悔する。
っていうか、まだ付き合ってないし。
勿体無いことしたぞ、と、自分の中の男がつぶやいた。
晴翔「…触らなくても、あいは…そばにいるだけで…俺、幸せなの…」
愛華「…」
愛華も照れて目をパチパチさせます。
2人はむず痒い空気になりますが、隣に並んで座りました。
晴翔「…今日、割と、体調いいから…散歩…行きたい…です」
愛華「うん」
熱を覚ますために外の涼しい風に当たろう。
玄関に飾ってある幼い頃の愛華と晴翔の写真が目に飛び込みました。
ほっぺたをくっつけたり、手を繋いだり、お昼寝してたり。
いつからか恥ずかしくなって。
晴翔「……いいな…」
愛華のことバカみたいに好きだっていう気持ち以外、取り巻く環境も世間の見方も、身体も変わったな。
愛華「はる、いきましょ?」
・
散歩といえば河川敷。立地に感謝だ。
愛華「河川敷近いって、素敵よね」
晴翔「気持ちいいもんね」
愛華「アイス食べたいわ」
晴翔「買いに行こうか」
愛華はいつも通りにチョロチョロ周りを気にせず歩く。
ドキドキしてるのに、俺は、まだ。
愛華のことで頭いっぱいになったら、悩んでたことや苦しくなってたこと、頭の片隅に追いやられた。
2人だけの世界になればいいのに
何回思っただろう。
晴翔「あ、危ないよ」
自転車が後ろからきたので、愛華の肩を引き寄せます。
愛華「ありがと…」
少し照れた愛華。上目遣いで晴翔を見つめる。
愛華が…照れている…
晴翔「…可愛い…」
可愛すぎる頭の上から湯気出そう。
そのつぶやきに気付かず、愛華はまたちょろちょろ歩き始めました。
・
コンビニもひさしぶり。商品が無機質に鎮座しているのも悪くない。
晴翔「何食べたい?」
愛華「これー」
愛華が選んだのは晴翔が好きなチョコアイス。
晴翔「いつものこっちじゃなくていいの?」
愛華「今日はこっち」
コンビニでアイスを買って、河川敷に行き、腰を下ろします。
久しぶりのアイスだ。
お腹壊さないかな。
晴翔「…あま」
愛華「美味しいね」
涼しいな…キラキラした水面が、心にまで反映しているよう。
晴翔「…学校…行こうかな」
愛華「…えー」
晴翔「喜んでくれないの?」
愛華「…2人で楽しかったのに」
今はまるで2人だけの世界。愛華も…嬉しいの?
晴翔「高校は…卒業したい」
愛華「はるに、意地悪する人がいるところにわざわざ行く必要ないじゃない」
世間の目とか押し付けてこない愛華みたいな人が親だったら、のびのび暮らせるんだろうな。
晴翔「…前に進めた方が、俺の自信になるから」
愛華「それなら、応援するわ」
晴翔はにこっと愛華に微笑みました。
愛華は、晴翔の苦しそうな顔ばかり見ていたから、少し泣きそう。…晴翔が笑えた。
晴翔はまた河川敷を眺めます。
その横顔を見つめる愛華、夕日がキラキラ瞳を照らして。
愛華「綺麗」
愛華はその瞳に吸い寄せられるままに。
晴翔「…へ???」
頬にキスしていました。
愛華「…あ」
愛華も、びっくり。
寝てる晴翔にいたずらでキスしてたから…つい起きてる晴翔にも…
恥ずかしさを誤魔化すように晴翔に抱きついて顔を隠しました。
もちろん、晴翔まで余計に恥ずかしくなります。
晴翔「……あい?」
愛華は恥ずかしくて顔を上げられません、首を振ります。
心臓が生き返ったかのようにまた存在感を増して、
脳の支配権が理性から愛おしさに。
晴翔はグイッと愛華の顔を包み、顔を見つめます。
そっとおでこにキスしました。
晴翔「…おあいこ」
愛華はコクっとうなづきました。
晴翔「…帰ろっか」
愛華「…ええ」
2人とも、今日は…なんか変だ、と思いながら並んで歩きました。
今日、ずっと会えてなかったから、欲しくなったのかな。
夢心地のまま、2人だけの世界ならいいのに。
どちらとも無く、手を繋いだ。
おまけ〜ファーストキス
5歳の晴翔の七五三。愛華も一緒に写真を撮りたいということで、
カメラマン「愛華ちゃんも晴翔くんも可愛いよー!」
2人仲良くおめかし。
愛華のお母さんも晴翔のお母さんも微笑ましく2人を眺めます。
晴翔「あいちゃん可愛いね!お姫様みたい!」
愛華「はるくんも王子様みたいね!」
2人は手を繋いでノリノリ。
カメラマン「お母様もポーズリクエストしちゃってください!」
愛華の母「晴翔くん!王子様っぽいことして!」
愛華の母はイタリア人。加えてハイテンション。
晴翔は愛華の肩に手を置き
ちゅーっ!
晴翔の母は悲鳴をあげ必死に謝ります。愛華の母は頬を手で挟み大笑い。
その瞬間をカメラも逃しませんでした。
愛華「ファーストキスが写真に残ってるっていいわね」
この写真は今も愛華の部屋にこっそり飾られています。
晴翔「いいな、この時の俺」
この写真は今も晴翔の机の奥に大切に仕舞われています。
続く