信じる

その日の夜。また、芽衣は家に泊まってくれた。

井間は寝付けず、ベットの上に座り、窓の外をぼんやり眺めていた。

幸せそうに眠っている。

芽衣の頬を愛おしそうに撫でる井間。

 

元気で明るくて、自分のこと、信頼してくれて…

 

井間「…無理、してない?」

 

自分だったら、隣で眠れないよ、こんな状況。

 

井間「…ごめんね…芽衣ちゃん…」

 

プルルルル

 

電話だ。千奈からだ。

しばらく画面を見つめ、なんコールか経って電話に出ました。

 

井間「もしもし?」

 

千奈『もしもし』

 

いつもの声。今日は泣いてない。よかった。

 

井間「どうしたの?」

 

千奈『…声、聞きたくなった』

 

井間「…そっか」

 

今は眠る芽衣の顔を見ます。

今日、落ち着いててよかった。

芽衣の手を握り、息を吸って。

 

井間「千奈、あのさ、兄貴と、ちゃんと話し合ってほしいんだよね。俺も、忙しくて、会いに行けなそうで」

 

行きたくないから。

なんて、突き放すことは出来ない。

ここが生ぬるいんだろうけど。

 

千奈『…え、いつも、忙しそうだけど…きてくれたじゃん』

 

井間「…そうだけど…千奈は兄貴の嫁でしょ?身内って言っても。…彼女のこと裏切ってるみたいで…」

 

芽衣の手を握る井間の手に力がこもります。

 

千奈『…彼女さんに怒られた?』

 

井間「ううん。彼女、優しいから、許してくれた」

  

千奈『じゃあ、いいじゃん。ゆきひろもいいって言ってる。』

 

井間はふーっと息をつきます。

 

井間「俺が、よくないの。」

 

千奈は絞り出すような声で、

 

千奈『私は…たかちゃんがいなきゃ無理…』

 

井間「それは、兄貴が今、いないから、そう思っちゃってるだけだよ?俺が、ずっとそばにいても、もっと、寂しくなるし、兄貴に、会いたくなるだけだよ?」

 

千奈『違う、私本当に』

 

井間「それ以上、言わないで」

 

言葉にしてはいけない。千奈に、言葉にさせてはいけない。

 

井間「…兄貴と千奈で、赤ちゃんのことも、2人のことも、話し合って?俺からも言うから。

2人でちゃんと話し合うまで、俺は姉さんのところ行けない…かな」

 

優しく、出来るだけ優しく、言ったけれど…沈黙が起きてしまった。

…傷つけちゃったかな…。

 

千奈『…ひどいよ…見捨てるの?』

 

井間「違うよ?姉さんが、兄貴といる時の方が…幸せそうだからだよ」

 

千奈『……』

 

井間「じゃあね、兄貴にも言っとくから」

 

千奈は返事もせず、黙ったまま。

井間は仕方なく、電話を切りました。

これでいいんだ。すごく、心配だけど。

 

井間はベットにそのまま倒れ込み、横にいる芽衣を抱きしめました。

そっと、起こさないように。

 

芽衣「大丈夫だった?」

 

井間は驚き、芽衣の顔を見ます。

 

井間「…ごめん、起こしちゃった?」

 

芽衣「井間さん、手、強く握りすぎだよ」

 

井間「…力んじゃった…」

 

芽衣の手を大事そうに撫でます。

 

井間「はっきり、突き放した方が、向こうのためなんだろうけど…なんか、傷つけんの…怖くて…情けないね」

 

芽衣はニコニコしながら、井間の頭をぽんぽんと優しく撫でます。

 

芽衣「情けないんじゃないよ?井間さんは優しいからだよ〜、強く言われたからって、絶対守る訳じゃないし。

無理に悪者になる必要もない!井間さんだって、家族なんだから!」

 

情けないけど、甘えてしまうな。この広い心に。

ありがとう、では伝えきれないぐらい。

 

井間「…芽衣ちゃんには敵わない…本当、変なことに巻き込んでごめん」

 

芽衣「えー?私だって、友達の変なことに巻き込みまくってるじゃん〜」

 

井間「芽衣ちゃんも、俺が…浮気してるかもってなって…びっくりしてるのに…」

 

芽衣「井間さんは、優しい嘘はつくけど、悪い嘘、絶対つかないでしょ?だから、大丈夫!」

 

井間の『好き』を、真っ直ぐ受け取ってくれる。この、笑顔で。

 

 

井間「…信じてくれて…ありがとう…」

 

芽衣の頭をぎゅっと抱き寄せます。

大切にしよう。自分の好きを、信じてくれる、芽衣を。

井間は体を起こし、芽衣の上に覆いかぶさります。

ゆっくりと顔を近づけ、唇を優しく重ねます。

 

一度離すと、芽衣が照れて枕で顔を隠します。

 

井間「顔見せて?芽衣ちゃん」

 

芽衣「やー…恥ずかし…」

 

井間「…芽衣?」

 

呼び捨てはずるいよ。と言わんばかりの顔を枕の間から覗かせる芽衣。

井間は、そんな芽衣を愛おしそうに微笑みかけ、頬にキスをしました。

 

2人は何度もキスをして眠りにつきました。

 

続く

 

 

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