女たらし
夏樹「にいちゃん邪魔。どいて」
洗面台に割って入ってきた夏樹。
朝はいっつも不機嫌。
だいちは歯磨きしていましたが、ずっと避けます。
だいち「久しぶりの学校だろ、にこやかにしてろよ」
夏樹「うるさいなぁ…女で学校行くなんて、仕事の延長だよ」
だいち「ドラマで、女装して、ばれんじゃない」
夏樹「学校にはギャルメイクしてるから大丈夫だろ、あ、ご褒美くれるんだよね?口紅がいい、デパコスのね」
だいち「…デパコス?」
夏樹「…デパートに売ってるような化粧品…」
なれた手つきで化粧をする夏樹。
昔、柚葆もこんな感じだったのかな。無意識に見つめます。
夏樹「…なに。」
だいち「いや、なんでも」
夏樹「…もうさ、俺も安定してきたし、にいちゃんも好きなようにやんなよ」
だいち「…別に、派手髪はもういいよ。飽きたし、戻したらお前と髪色被るし」
夏樹「俺今地毛黒いし」
だいち「…いいんだって、あいつも変わったし」
夏樹「あいつ?彼女?」
だいち「に、する予定の女」
夏樹「うわー、何その自信。昔みたいにちょっと冷たい孤高の狼なんて、彼女喜ばないからね?ちゃんと、好きとか、愛情表現できて、顔色見て、優しくできる、気の利く男がモテるからね?」
だいち「ガタガタうるせーな」
夏樹「にいちゃん絶対好きとか言わないじゃん、好きな子に意地悪するタイプ」
図星のだいち。女の子に好きなんて、面と向かって言ったことあったか。
夏樹「図星だ、意地悪するし、素直にならないから、苦労してんだ」
夏樹は哀れんだ顔で鏡越しにだいちをみます。
夏樹「どうせ嘘つけないんだから、素直になんなー」
朝からイライラする。
イライラするのは全部言ってることが的を得てるからだ。
悔しくて、せめてもの反撃をします。
だいち「お前は、その、なんでもズバズバ言うところ、やめろよ、モテないぞ」
夏樹「仕事柄モテても困るんで結構。」
だいち「…かわいくねーな」
夏樹「えー、世界一可愛いから」
メイクを終えて、鏡越しではなく、直接だいちにウインクしてみせる夏樹。
行ってきまーすとそのまま鞄を持って出て行きました。
愛情表現できて?顔色見て?気を利かせる?
無理難題だ。ばーか。
長い間口に含んでいた歯磨き粉を流しても、すっきりしない。
お気に入りの香水、少し多めにつけよう。
そして、連絡を。あいつに。
・
『化粧詳しいよな?今から街のデパートな』
そう強引に言われて、デパートの化粧品売り場でだいちと2人。
断ればいいのに、タイミング良く暇な日で、ちゃんと来てしまう柚葆。
この人、化粧してたっけ。
まさか、他の女へのプレゼント選ばせてるんじゃ…
真剣な顔で口紅の睨めっこするだいち。
だいち「どの色がいいんだ」
柚葆「…誰にあげんの?狙ってる女の子?」
だいち「お前じゃねーよ、弟だ、弟」
狙ってる女の子…お前って、そんなサラッと言わないでよ。別に求めてないのに。
柚葆「弟、口紅とか使うんだ」
だいち「昔からな、妹と間違えられるぐらい似合う顔してんだよ」
柚葆「それにしても、デパコス頼むなんて…」
だいち「あー、ご褒美やるって言ったら、デパコスの口紅くれって…アバウトすぎるだろ」
柚葆「へー…ご褒美、何頑張ったの」
だいち「結構な大役やって…」
だいちは、言い過ぎた、と、咄嗟に横を向きます。
柚葆「大役?」
だいち「あー……柚葆」
いきなり名前で呼ばれ、ビクッとする柚葆。
柚葆「…なによ」
だいち「付き合ったら、教えてやるよ、そしたらいずれいうことになるし」
柚葆「…弟ダシに使うんじゃないわよ、つくづくサイテー」
だいち「は?別に使ってねーよ、早くお前も観念しろよ」
柚葆「最初っから付き合う気なんてありませーん!あんたみたいな軽い男となんて………!!!」
ぷりぷり怒りながら威勢よくベラベラ喋っていた柚葆から表情が消えます。
だいち「……どした、大丈夫か?」
だいちは心配して少し近づきます。
柚葆「…何あれ」
柚葆の視線の先にだいちも目をやります。
だいち「……ん…?あれって…」
柚葆は視線の先の相手を速足で追いかけます。
カツカツと、音を立てながら
そしてその相手の腕を思いっきり引っ張り、振り向かせます。
柚葆「あんた…何考えてんの」
井間「……柚葆ちゃん?」
驚きと焦りを浮かべた表情の井間が、隣に、手を繋いで連れているのは…
柚葆「だれ?この女」
小柄で華奢な、柔らかな茶髪の女性。芽衣とは正反対のか弱い感じの。その女性も焦ったような声で。
千奈「…もしかして彼女さん?」
井間「いや、友達、彼女の」
何説明しちゃってるのよ、芽衣っていう彼女がいるのに、手繋いで、こんなお洒落なデパートに来てて…
柚葆「まずその手を離さんかい!!!」
柚葆は完全にヤンキーモード、怒りの沸点に達して煮えたぎってます。
大声でブチ切れる柚葆を取り押さえるだいち。
だいち「落ち着けって」
柚葆「落ち着けるわけないでしょーが!!こんな堂々と浮気して!!今すぐ芽衣に知らせてやる…」
井間「待って!」
こんな大きい声出すんだ、この人。井間の必死な顔にますます苛立ちます。
井間「…このことは言わないでほしい」
柚葆「浮気しといて何言ってるの」
千奈「あの…勘違いを…」
井間「千奈は下がってて」
井間は柚葆に頭を下げて。
井間「…頼む…」
柚葆は怒りを抑えて。
柚葆「どいつもこいつも、女の子をバカにして…もてあそぶやつなんか…消えればいい」
そう言い捨ててその場から立ち去ろうとします。
だいちも後を追おうとしますが、
柚葆「あんたもついてこないで!」
振り返るのポロポロ泣いている柚葆。
そのまま走って行ってしまいました。
だいち「…はぁ?」
井間「…ごめんね、彼女怒らせて」
だいち「まぁ…追いかけるんで、大丈夫です。
…井間さん…言うことあるならちゃんと彼女さんに言ったほうがいいですよ、すぐ
時間経つと、面倒ですよ。」
それだけ言い、柚葆を追いかけました。
だいち「待てよ、柚葆」
柚葆「こないでって言ったじゃん!」
だいち「泣いてるお前ほっとけるかよ」
柚葆「長い間?放置してたのに?」
だいち「…え?」
柚葆「私のことだって、ずーーっと放置してたじゃないの!」
ぽろぽろ泣きながらだいちを睨みつける柚葆。
柚葆「なんで?なんでそんな女の子の気持ち弄べんのよ、井間さんもあんたも!!」
だいち「それは…」
柚葆「高校、最後に会った日。勝手にキスして、そのあと、何も音沙汰なしで?
ほかに女の子と付き合ってたのに…私で遊んで…おもしろがって
そんないい加減なやつ、今更出てきても、付き合うわけないでしょ?」
だいち「会いに行った、でも、会えなかった」
柚葆「なんでよ?あの時は普通に会おうと思えば会えた…」
だいち「普通じゃ、なくなったから、会えなかった」
柚葆「…普通じゃ…なくなった?」
だいち「…言い訳だから、言いたくねぇけど…俺も、会いたかった、ずっと。柚葆と会ってた時、他の女と付き合ってなんかねーよ」
会いたかった
真っ直ぐそう言われて、少し嬉しいのが悔しい。
だいちから香る爽やかなあの香りが、当時のことを思い出して、誘惑されるよう。
ごまかすように意地悪を言います。
柚葆「…どうせ、最近とか?私と再会するまではほかの女と遊んでたんでしょう?」
だいち「…ん?」
だいちは半笑いでふざけた顔で聞き返します。
意地悪で言ったのに、ほんとに遊んでたのか?!
柚葆「……この女たらし!!!」
柚葆は持っていたバックを振り回し、だいちは後退り。
その間に走って逃げ出しました。
だいち「おーい!またな!」
全然理想じゃない。あんないい加減な男。なのに、ドキドキするのはあの香りのせいだ、そうだ、そうしておきたい。
あいつに惚れてるわけじゃない。
でも、言い訳を聞いたら、納得できんのかな。
だいちが会えなくなった理由。
続く