千奈「…出てくれない…どうして私のこと1人にするの…」
1人でポロポロ涙を流す千奈。 お腹は重たいし、心も重たい。
結婚する前から振り回されてたけど、好きだった。
離れても近くに来てくれたから。
でも今は…優しくて気を遣ってくれる、たかちゃんの方が…
こんなこと考えてはいけないのに。
赤ちゃんのためにも…ゆきひろと話したいのに、顔合わせても、まともに会話がない。
話をするのが怖くて 大丈夫。 って言ってしまう。
千奈「…ご飯つくろ」
気を紛らわせるために、手を動かそう…
立ち上がりますが、足にうまく力が入らず、よろけて、そのまま…
千奈「…あっ…!!!」
芽衣「今日もすんごい携帯鳴ってるね」
井間「…全部姉さんからだと思う」
ちゃんと千奈の夫、井間の兄、ゆきひろと話すように言ってから、電話に出ないようにしている。
芽衣「千奈さん、お兄さんとまだ話せてないのかな…?」
井間「そうだね…」
井間は携帯の電源を切りました。
井間「兄さんとちゃんと話してもらわないと…」
芽衣「電話に出るぐらいならいいんじゃない?」
井間「声聞いたら…断れない」
それに、と携帯を投げて、ずいっと芽衣に近づきます。
井間「芽衣ちゃんと2人の時間邪魔されたくない」
そのまま、ちゅっ、と唇が触れ。 包み込むように抱きしめられました。
いい香り…あったかい…
でも、なんか、千奈さんを放っておくのも…
芽衣「ねえ、一回電話出てみて?」
井間「…どして?」
芽衣「もしさー、会いに来てって言われたら…私も行っていいかな?女同士の方が話しやすいこともあると思うし」
井間「芽衣ちゃんに、そんな、気を遣わせたくない」
芽衣「やー、私が気になっちゃっただけだし…」
井間「…正直助かる…」
芽衣に甘えすぎてるな
つくづく思う井間。本当にいいのか、無理してない?
こんなに人に甘えたこと…あったっけ
申し訳ないな、
長いコールの後、電話がつながりました。
井間「もしもし?千奈、今何して……え?……は、いえ、弟です………」
井間が目を見開いて、声にならない声をあげ、
井間「…わかりました、今行きます」
深刻な顔をした井間。
芽衣「…どうしたの…?」
井間「…病院に…運ばれたって…」
普段冷静な井間も顔面蒼白で、ケータイを握る手が震えています。
芽衣「え?!千奈さんところ行こ!」
井間「急ご…」
2人は急いで千奈のいる病院に向かいました。
千奈は家の中で転んでしまい、
お腹を打ってしまったそう。
赤ちゃんに異常はなかったものの…
1人で心細かっただろう。
転んでしまって、パニックだっただろうに、
運ばれている時、1人で、どんな気持ちだったのかな
こんな時に、兄はなにをしているんだ。
俺は…なにしてたんだ
芽衣と2人で千奈の病室に入ります。
井間「…千奈…?」
千奈はパッと顔を上げ、溜まっていた涙が溢れ出します。
井間「…ごめん、ごめんね…」
井間は優しく千奈の背中を摩ります。
千奈「たかちゃん…うぅっ」
千奈は井間の首に手を回し、その腕の中でわんわんと泣きじゃなります。
井間も千奈の頭に手を回し、包み込むように抱きしめます。
この人、俺いないとダメだ。
冷たさが服に染みて、千奈の涙で溺れそう。
涙が治るまで、長い時間、懺悔のように思えた。
井間「…退院の日、迎えに来るから、千奈も痛かったでしょ?脚。」
千奈「…うん」
井間「じゃあ、芽衣ちゃん行こ……っか…」
芽衣の方に振り返り、顔を見ました。
井間「……っ」
寂しい、悲しい…そんな簡単な言葉じゃ表せられない、
あの、明るい芽衣に、こんな顔…させてしまっていたんだ。
芽衣「…千奈さん、お大事になさってください」
芽衣は作り笑顔をし、2人は病室を出ました。
病院を出てすぐの交差点、
夜なのに、よく車が行き交う。
芽衣「千奈さんと赤ちゃん…とりあえず無事でよかったね」
井間「…そうだね」
足取りがなんとなく重い
井間「…芽衣ちゃん…ごめん」
芽衣「なにが?」
涙で濡れた左肩に夜風があたり凍えそう。
それよりも、彼女の心の方が、凍えてる
流石に、もう、ダメだろ。
井間「…別れて…ほしい」
続く