夏樹が今回出るドラマの役は25歳のホストの役。
偶然出会った普通の女の子と本気の恋に落ちる役。
役との歳の差もあり、難しい。
だいちを見て参考にしたり、
大人の恋愛の小説や漫画読んだり、ドラマ見たり…
必死に食らいついている。
視聴率もそれなりで、まあ、うまくいってるかな、と思ってたけれど。
収録後、
監督がディレクターが話しているのを聞いてしまった。
監督「視聴率いいね」
D「FUYUの人気すごいですよね」
監督「でもなぁ…あの、ヒロインを自分のものにしたいけど、できない葛藤がなぁ…」
D「大人の恋は少し早かったですかね?彼には」
監督「高校生だもんな…本気の恋する暇もないから演技力でこれからカバーしてくれればいいんだけどー」
D「頑張り屋だから…頑張ってくれると思いますよ」
期待されてる。
自分の力の見せ所だ。
絶対成功させたい。
プレッシャーという重りが華奢な夏樹の肩にのしかかりました。
・
夏樹は今日は夜から撮影なので、branchに寄って、美味しいもの食べてから行こう…
と、店内に入ると、
夏樹「え」
裕翔「あ」
丁度、裕翔が席に着こうとしているところ。
裕翔「また偶然ですね」
夏樹「あ、あ、はい」
バイト中の理玖は不思議な顔をして、
理玖「…お知り合い?」
夏樹「うん、色々、助けてもらって…」
理玖「へー…あ、彼ね、常連さんの弟さんなの」
裕翔「兄ちゃんがここうまいって…どうしました?」
夏樹「……」
夏樹は動揺して話が入ってこない。
理玖「夏樹…はいつものでいいね?」
夏樹はコクリとぎこちなくうなづきました。
夏樹「あ、待って、あと…」
・
裕翔「うめぇ」
夏樹「美味しいよね」
裕翔「ほんと食っていいんすか?」
夏樹「優勝おめでとうだから」
裕翔「最高〜」
裕翔に好きなもの全部頼んでいいよ。と、言ったらものすごい量で机が足りない。
夏樹「ほんと、ほんとよかった」
裕翔「このぐらいかすり傷っすよ」
左腕は固定され吊るされてる。
悪化しただろう。痛いだろう…
夏樹「こんなんじゃ償いきれないよ…ほんと怪我させてごめん」
夏樹は俯いて手をぎゅっと握ります。
裕翔はフォークを持ち替え、ケーキのイチゴをフォークに刺し、夏樹の口にむにっと押し付けます。
裕翔「優勝したんだし、そんな顔すんな」
夏樹は目をうろうろさせて、そのままイチゴをもぐもぐしました。
裕翔「夏樹…さん?さ、」
夏樹「うん」
裕翔「財力えぐくないっすか?」
夏樹「あ」
仕事がめちゃくちゃ増えたから、家の生活費なんて余裕でまかなえる。
お小遣い、普通の高校3年生と桁違いだし。そんなこと言えないけど。
夏樹「ば、バイトしたから」
裕翔「くれたタオルも、めっちゃいいやつだったし」
夏樹「貯金めっちゃあるから」
裕翔「ふーん……えらいね、仕事、頑張ってて」
不意にでた言葉が心に沁みた。
えらいね、仕事頑張ってて
売れっ子は仕事たくさんあっていいなぁ、
高校生なのに、あんな目立って、
嫌味なんていくらでも聞いてきた。
のに、
えらいねって、言ってくれた。
まあ、仕事内容も正体も、しらない裕翔から言われたけど。
嬉しい
そんな感動なんて知らず、裕翔はもぐもぐと料理を食べ続ける。
夏樹「良く食べるね」
裕翔「めっちゃうまいです」
夏樹「うん、いい食べっぷり、かっこい」
裕翔「ぐふっ!!」
裕翔はむせて咳き込みました。
慌てて水で流し込みます。
夏樹「だ、大丈夫?」
裕翔「きゅ、急にかっこいいとか言わないでクダサイヨ…」
耳まで真っ赤になる裕翔。
可愛い、女の子慣れしてないんだぁ…
それとも…?
でも、女の子…だよね。
裕翔は最後ケーキまでペロリと平らげ、店を出ました。
裕翔「ご馳走様〜」
夏樹「ううん、ほんとおめでとう、優勝」
裕翔「これで兄ちゃんにぎゃふんと言わせられる」
夏樹「ははっそんな」
ちょっと古い言い方にツボる夏樹。
笑う夏樹を見て裕翔もつられて笑います。
裕翔「…そう言えばさ」
夏樹「なに?」
裕翔「夏樹さん、恋人いるんすか」
夏樹「へぇ?」
さっきまでのふにゃふにゃ笑顔とは打って変わり、真面目な顔。
夏樹「…いないよ?」
裕翔「ふーん」
や、ふーんてなに、なに?!
裕翔「ピアス」
夏樹「ピアス?」
裕翔「あの、店員さんとお揃い?カフェの」
夏樹「あ、うん」
裕翔「…だから…相手かな…って」
夏樹「あ、でも、あいつ、彼女いるし、めっちゃラブラブの、ほぼ同棲みたいだし…それに、ピアスこれしかないから、穴塞がんないようにこれしてるだけで…」
裕翔「へぇ」
夏樹「なんで聞いといてへぇなのさ」
裕翔「聞きたいこと言ってくれたから」
夏樹「……」
そのあと、送りますよ、と切り替えてしまい、そのまま普通の会話になり、家に着いてしまった。
裕翔「じゃあ、また」
夏樹「う、うん…」
裕翔が振り返り、
裕翔「また遊びたいんすけど…」
夏樹「え?」
裕翔「迷惑。でした?」
夏樹「そ、んなことない!びっくりしただけ」
裕翔「じゃあ…連絡先聞いてもいいですか」
夏樹「もちろん」
連絡先に裕翔が。
どんな有名な俳優より、監督より、スポーツ選手より。嬉しかった。
でも、
裕翔くんは、『夏樹さん』に会いたいわけで、
俺にじゃない。
続く