裕翔の試合当日。
夏樹「はぁ…」
愛斗「どしたの?ずっとため息」
気晴らしにバレエ教室に来たけど、
試合結果が気になって全然集中できない。
スマホをチラチラ。
愛斗「何みてるの?」
夏樹「…知り合いの試合の結果…」
愛斗「なんの試合?」
夏樹「…空手」
愛斗「空手?」
この後ドラマの撮影もあるが、
家でじっとしていられず、とりあえずここに。
愛斗「そういえば、妹の彼氏の弟も出てるって…怪我治ったのかな」
夏樹「怪我?」
愛斗「階段から落ちて、技受けるとき、前進痛いと思う…あの怪我は…」
夏樹「……っ」
裕翔くんのことじゃん。
自分の前では、あんなに元気に振る舞ってくれたけど。
やっぱり痛いんだ。
優勝して欲しいけど、
お願いだから、無理だけは、無理だけはしないで。
お願い。
・
監督「金山」
裕翔「はい」
監督「腕」
裕翔「大丈夫ですよ」
監督「選手生命これからだ」
裕翔「でも、今勝っときたいんで」
監督「あいつは、無理して潰れた」
裕翔「…兄さんは潰れてないです。最強だから、俺は超えなきゃいけないんです」
怪我したこと報告して時、こけて怪我したと説明したら、監督は無表情のまま、そうか。
だけ、つぶやいた。
怒鳴られると思った。
無口だが、全部お見通しなオーラ出してくる。
わかってんのかどうか知らないけど。
裕翔は集中し直し、試合へ向かいました。
・
夏樹「怪我させたの、俺のせいなんです」
愛斗「…え?」
夏樹「俺のこと庇って…」
愛斗は泣きそうな夏樹の頭を優しく撫でます。
愛斗「信じよ?ね?」
目をゴシゴシ擦る夏樹。
愛斗「そんな擦ったらドラマ撮れなくなるよ?」
その後も、大丈夫、大丈夫、とずっと背中をさすってくれました。
そんなに泣き虫じゃないのに。
自分は人のために泣けない人間だと思ったのに、
裕翔のこと考えると涙が出てくる。
今はもう、祈るしかない。
・
試合進むたび、技を受けるたび、痛みが増してくる。
もう左手の感覚なんてなかった。
思いっきりタオルでゴシゴシ顔を拭く。
負けたら。あの笑顔。向けてくれなくなりそう。
痛みで意識と集中が散漫になる。
晴翔「裕翔ーーーー!!」
よく知っている声が、会場に響きわたる。
晴翔「裕翔ー!!!絶対優勝だからな!!!」
普段大きい声出さない晴翔が、
はち切れるぐらい大きな声で叫んでいる。
裕翔「会場で叫ぶなよ…」
裕翔は照れ臭くなり、無視して水を飲みました。
俺がやるしかないんだ。
やるしかないんだ。
・
夏樹「どうなったかな…」
急いでスマホをスクロールし、
あった。試合結果。
心臓が口から出そう。
手を振るわせながら、恐る恐る、結果を見ます。
夏樹「…!」
愛斗「FUYUくん?」
夏樹「うっ…ううぅ…」
夏樹はその場に泣き崩れました。
夏樹のスマホには、
優勝者の写真が写っていました。
決勝の試合後、優勝の喜びを噛み締めながらも、
相手への敬意を示すため、拳を固く握りしめ、
深く礼をする。裕翔。
・
何度も写真を見返す夏樹。
よかった。ほんとよかった。
他の写真をよく見ると、持ち物のところに、夏樹があげたタオルが置いてありました。
夏樹「…また会える…かな…」
とは言っても、電車に乗るとまた厄介なこと起こりかねないし…んー…どうしたらいいものか。
連絡先、聞いておけばよかった。
続く