潔く、言い訳できないように、
夏樹は女装しないで、
待ち合わせの公園に行った。

時間より早く行ったのに、
裕翔はもういた。
キスしたときの、あのベンチに。

ベンチに座っている裕翔と目があった。

まあ、向こうからしたら、待ち合わせの『夏樹』ってわからないだろうけど、
夏樹から声をかけようと、軽く息を吸うと。

裕翔「夏樹さん」

裕翔は立ち上がって、
少し駆け足で向かってきた。

夏樹「…なんで」

女装をしてない、普段の格好、
ましてや、帽子もかぶってない、
なんならFUYUの時のまんま。

裕翔「帽子とかかぶってなくて大丈夫っすか?」

夏樹「や、ちょっと待って…え?」

裕翔「…まあ、この時間の公園は人来ないっすよね」

いつも通りの裕翔と、混乱する夏樹。

夏樹「…なんで…夏樹ってわかるの…」

裕翔「え、だって…夏樹さんでしょ?」

夏樹「や、そうだけど」

裕翔「でしょ?」

夏樹は声が震えます。

夏樹「男って…知ってたの…?」

裕翔「え、うん、わかるよ」

夏樹「キスした時も…知ってた?」

裕翔「うん」

夏樹はポロポロと涙が出てきた。

知ってて、接してくれてたんだ。

キスしたときも、知ってて、
ドキドキしてくれてたんだ。

泣きじゃくる夏樹に狼狽える裕翔。

裕翔「な、泣かないで?なんか、嫌なこといった?俺」

夏樹「違う…っ、ずっと…怖かったから」

裕翔「怖い?」

夏樹「裕翔くんが、俺が男ってわかって、騙してたのか、とか、キスしちゃったし、嫌な思いさせちゃったんじゃないかって…」

裕翔「別に…夏樹さんは夏樹さんでしょ?それに変わりなければ俺は問題ないし」

夏樹「…いいやつすぎるだろ」

とりあえず座ろ?と夏樹の背中を摩りながら歩き、ベンチに腰掛ける2人。

夏樹「ねえ、いつから知ってたの俺が男だって」

裕翔「…会った日かな」

夏樹「は?!そんな前から?!完璧女装してたろ??」

裕翔「やー…でも…」

夏樹「なんだよ」

裕翔「わ、わかるもんはわかるんすよ」

夏樹「だからなんで、答えろよ」

裕翔「…あの時、おぶって学校まで行ったんすよ、夏樹さんの」

夏樹「うん、ありがと、重かったろう」

裕翔「で、そん時の…感触?」

夏樹「感触…?」

裕翔「女子おぶる時って…ほら…当たるから…それが…なかった…から」

夏樹「な?!」

夏樹は立ち上がり、裕翔は気まずそうに横を見ながらボソボソ話ます。

裕翔「だって……ふ、普通に固かったし…」

夏樹「へ、変態!!!!」

裕翔「しょ!正直に言ったのに!」

全く…とベンチに腰掛ける夏樹。

夏樹「それで俺が女装してるの気にならなかった?」

裕翔「かわいかったし…似合う格好してんだなって…」

夏樹はストレートな言葉に赤面する。

裕翔「で、取材で会った時に、あれ、あの時の子だっ思った…」

夏樹「俺がFUYUってことも知ってたの…なんで聞かないの?」

裕翔「別に芸能人だろうがどうでもいいし…俺は夏樹さんだったらなんでもいいんだってば」

決まりとか当たり前に興味がないんだ。

かっこいいなぁ、もう。

これ以上、かっこいいところ見せるなよ。

いままで嘘で固めていた世界にこんなにすんなり入ってくるなんて。

夏樹「悔しい!なんか!」

裕翔「なんで?」

夏樹「俺の方が年上で仕事もしてんのに!」

裕翔「それは知ってますけど…」

夏樹「ずっと、演じて、嘘ついて、金稼いで、

   それで、みんなに認めてもらって、生きてきたのに」

作った笑顔、涙、怒り
それに振り回される生活の中の唯一オアシス。

素の自分、なのかな、これが

好きな人の前で嘘つかなくていいなんて

こんな幸せなことがあっていいのか。

出会えてよかった。

好きにならせてくれてありがとう。

黙ったまま感動していると

裕翔「…それも。全部、夏樹さんなんじゃない?

   素敵だと、思いますけど

   それに、いろんな夏樹さん見れんの、嬉しい」

裕翔はふわっと優しい笑顔を向け、夏樹を見つめます。

夏樹「好き」

その瞳に吸い込まれるまま、言葉が溢れた。

裕翔「俺も、好きですよ」

FUYU『誰といても、何してても、お前のことが、頭から離れないんだよ…』

ヒロインを頭から包み込んで、
ぎゅっと抱きしめます。

FUYU『傷つけてごめん…でも、頼む……そばにいて…』

ヒロイン『離れないでー…ずっと』

最終回、またガン見している裕翔。

ずっ…

ん…?よく見ると泣いてる?

晴翔「…こういうベタなパターン弱いっけ…?」

裕翔「違うっ、これは、違う」

夏樹が泣いてたからつられただけ。
って、夏樹に言ったら笑われるな。

どんな境遇でも、気持ちが繋がってれば、愛し合える

ドラマのテーマらしい。

裕翔「好きなやつなら、事情とか境遇とか関係ない気がするけど」

一向に入り込めなかった裕翔。

そんな裕翔をみて、晴翔は

晴翔「裕翔らしいな」

裕翔「なにが」

晴翔「周りに流されないとこ」

裕翔「ふん、兄ちゃんもだろ」

晴翔「…まあ、そうか?」

裕翔は涙を拭いて、
ドラマお疲れ様。
と連絡した。

ピコン

すぐ返信が来た。

『ドラマ見るな』

裕翔「はぁ?」

晴翔「何…」

裕翔「兄ちゃん、ドラマとか映画見放題のなんか入ってない?」

晴翔「…あいは入ってた気がする」

裕翔「ちょっとあいちゃんの家行ってくる」

晴翔「待ておい!俺もいく!」

結局3人で、FUYUの出ている作品、夜通しで見ることになりました。

夏樹はスマホを見ると、
裕翔からのメッセージ。

裕翔『サイコパス役が1番似合ってた』

夏樹「はぁ?!」

もっとあるだろ!…いや、
全部見たのかよ!!

恥ずかしい…でも、めっちゃ嬉しい…。
サイコパス役って…めっちゃ昔のやつじゃん。

夏樹はにやにやしながら返信しました。

夏樹『今度感想スピーチしろよな』

送ってすぐに返信が。

裕翔『何時間でも語ってやる』

全く。

いろんな自分を覗かれてるみたいで恥ずかしい、

それよりも、感想なんてどうでもいいから、早く会いたい。

夏樹「行ってきまーす」

軽い足取りで、現場に向かいます。

今日の現場は、

夏樹「高校生と部活の青春をお届けするこちらのコーナー、今日はスタジオからお送りします!」

朝の情報番組の放送。
今日はスタジオから生放送。

夏樹「今日お呼びするのは、全国高等学校空手道選抜大会で優勝した、金山裕翔さんです!」

目が合う2人、

恥ずかしそうににこっとする裕翔。
夏樹もつい、FUYUの仮面が外れ、にっこり笑い返します。

こうして、笑顔で会えて、よかった。

 

続く

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