リビングで、珍しくテレビを見ている裕翔。
何やら眉間に皺を寄せている。
晴翔「何見てんの」
裕翔「ドラマ」
晴翔「それはわかるけど」
隣に座って、晴翔もドラマを見る。
今流行りのホストのドラマだ。
ちょっと重めの恋愛物。
裕翔が1番見なさそうなのに。
場面は主演のFUYUとヒロインの熱いキスシーンになった。
兄弟でこれを見るのはきつい。
って言うかなんでそんなにガン見してんだよ裕翔。
しかも難しい顔して。
ヒロイン『あなたにキスされても、不安になる一方なの』
FUYU『なんで?好きだから、してるんだよ?』
ヒロイン『お客さんとも…してるでしょ…』
FUYU『それは仕事だから…』
ヒロイン『…ごめん、私耐えられなかった』
FUYU『謝らないで…わかってた、
俺は、恋愛しちゃいけないって』
ヒロイン『…そんな』
FUYU『…好きになって…ごめんな』
最後に、最愛のヒロインを抱きしめ、2人は別れる…と言うエンディング。
次回は最終話らしい。
裕翔「女も仕事って割り切ればいいのに…男の方めっちゃ大事にしてくれるじゃん」
晴翔「そりゃ…好きだから、独占したくなるでしょ」
裕翔「それ兄ちゃんじゃん…愛華ちゃんに近づく男、みーんなに牙向いて」
晴翔「裕翔も好きな子できたらそうなるだろ?」
裕翔「俺はー…わかんなかったけど」
裕翔は口元に手を当ててうん…とうなづき。
裕翔「割り切れるわ、うん」
晴翔「…好きな子…何やってる方なの…」
裕翔「や、別に」
晴翔は少し不安になった。
・
晴翔「なんか最近弟に彼女できたっぽいんだよね」
ドサドサドサ
本が落ちる音。
だいちが持っていた雑誌をぶちまけていました。
大学で晴翔とだいちはよく一緒に課題をしています。
今日も穏やかに進めていたのに、急に打ち込まれた。
晴翔「大丈夫?」
だいち「お、、おうありがとう」
全てを知っているだいちは汗が止まりません。
晴翔「なんか、彼女の友達から聞いたんだけど、他校の子らしくて」
だいち「へぇ…」
晴翔「なんか新しいタオルあって…自分で洗うし、部活に毎日持ってってるし、多分その子からもらったんじゃないかな…って」
だいち「お、おう…」
晴翔「部活ない日、たまに帰ってくるの遅いし…顔真っ赤にして帰ってくるし」
だいち「…まじか」
晴翔「これって黒だよな」
だいち「…だな」
付き合ってはない。
だって、相手の子、夏樹は、
自分は付き合えないって思ってるから。
壁は厚くて高い。
だいち「お前の弟って…彼女いた時どうなの、今まで」
晴翔「いたことないんじゃないかな」
だいち「女の子に興味ないとか?」
晴翔「まず人間に興味なさそうだしなあいつ。でも、その子は思い入れあるっぽいから…」
だいち「…そっか」
そっと応援してあげられたらな…
出会っちゃったから、もう、何もなかったことにはできないのだから。
・
たまたまテレビ局で監督に会った。
監督「FUYU!頑張ったな」
夏樹「監督…」
監督「表情から声色まで…いやぁ最高だった…」
夏樹「…これからも頑張ります」
監督「最終回、放送楽しみだな!」
監督にポンと背中を叩かれ、
少しだけ軽くなった。気がする。
「俺には、恋愛はできない」
「好きになって…ごめん」
セリフが自分に突き刺さる。
もう、友達には戻れないのに。
恋人にもなれない。
好きになってごめん
ぷるるるる
理玖だ、
夏樹「理玖?どした」
理玖『ドラマ、お疲れ様って言えてなかったから』
夏樹「ありがとう…」
理玖『ううん』
夏樹「…あのさ、理玖、ごめん。夏樹冷たいこと言って」
理玖『うん、それ言いたいんじゃないかなって思って電話した』
夏樹「うるさ」
理玖『忙しい?』
夏樹「ううん仕事巻いたから…あ、そうだ、あと、前いってくれたじゃん、夏樹のマネージャーになりたいって」
理玖『もちろん、変わってないよ気持ち』
夏樹「よかった…夏樹今割と忙しいでしょ」
理玖『割とって言うか…やばいぐらいね』
夏樹「だからね、2人体制になるみたいで、とりあえず理玖暇な日あったら来てほしいんだよね」
理玖『え、すごいね!ありがとう!行くね!』
夏樹「こっちこそありがとう、理玖がマネージャーだったらめっちゃやりやすい」
理玖『…そういえばさ』
夏樹「ん?」
理玖『演技、なんか、変わった?』
夏樹「…え、何」
理玖『いや……めっちゃ、今回のドラマ、いいなって…いつもいいけど』
夏樹「…そりゃどうも」
理玖『恋愛で、ダメになる人と爆発的に良くなる人いるって言ってたじゃん』
夏樹「うん、言った」
理玖『夏樹は良くなるんだね』
夏樹「え?」
理玖『じゃあね』
夏樹「まって!」
電話が切れてしまった。
理玖に言ったっけ、好きな人できたって。
そんなわかりやすい?
裕翔にしばらく会えていない、連絡する勇気もなければ、
忙しくて会う時間もなかった。
今日早く終わったから時間あるけど…そんな都合よく会えるわけ…
ぷるる…
またスマホが鳴った。
裕翔からだ。
夏樹はゴクリと息を呑み込み
夏樹「…久しぶり」
裕翔『元気っすか?』
夏樹「…うん、まあ」
裕翔の声に泣きそうになる。
すんっと鼻を啜る。
裕翔『あの…今度、会って話したいことあって』
きた。
だよね、キスして、そのままお友達って普通に遊べるわけない。
夏樹「私も、話したい」
裕翔『ん、じゃあ、空いてる日、送るんで』
夏樹「今日は」
裕翔『今日?』
夏樹「無理だよね」
裕翔『いや、行く』
夏樹「…ほんと?」
裕翔『じゃあ、後で』
夏樹「…ばいばい」
ばいばい…だね
あの時、キスしなかったら、
裕翔は恋心に気づかず、
ずっと友達でいられたのかな。
そんなこと考えても、もう遅い。
続く