晴翔「おかえり〜裕翔夕飯いる?」
リビングから声をかけますが、無言で階段を上る音が響きます。
晴翔は心配になり、様子を見にリビングを出ます。
晴翔「裕翔?」
裕翔は振り返る。
晴翔「か、顔赤くない?」
晴翔も階段を上がり裕翔に近づきます。
裕翔「…普通に元気だから」
顔を覗き、良く見ると…
唇の少し下に不自然にピンク色が付いている。
リップ…??色付きの使ってたっけ、裕翔。
裕翔「兄ちゃんは、好きじゃないやつとキスして、ドキドキする?」
晴翔「どう言う状況…人工呼吸とか?」
裕翔「…しないよな普通」
晴翔「うん…ドキドキか…しないな」
裕翔「…だよなー…」
ぷいっと振り向き、歩いて部屋に戻ってしまいました。
お、弟が、恋しているぞ
うきうきしながら夕飯の残りをパック詰めしました。
・
家に帰ると、ウィッグを脱ぎ捨てて、バタバタと音を立てて部屋に閉じこもりました。
だいち「夏樹…?」
母「なっちゃん…どうしたのかしら?」
だいち「…あいつにも悩みあんだよ」
母「ちょっと行ってくるわね」
だいち「おう」
母は夏樹の好物のお菓子をもって、夏樹の部屋をノックします。
母「なっちゃん、クッキーあるわよ?食べる?」
夏樹「いらない」
涙声の夏樹。
一瞬の欲望のせいで、
これから続けられたかもしれない関係をこわしてしまった。
唇の柔らかさだけが残る。
なんで、好きになっちゃったのかな。
FUYUの姿で仲良くなっとけば、
こうなってなかったかもしれないのに。
理玖にだって、ずっと友達でいられてるのに。
なんで。
恋愛対象のことは、兄しか知らない。
父がいなくなってから、ずっと、父親のように守ってきてくれた兄。
打ち明けた時も、
そうか。
とだけ言って、頭を撫でた。
そうやって、何も言わずに受け入れてくれる人なんて普通いない。
裕翔も、ほんとのこと言ったら…もう…。
考えれば考えるほど、ぐちゃぐちゃになって。涙が、止まらなくて。
母「なっちゃん」
母が優しく名前を呼ぶ。
母「お母さんね、お父さんと別れた時、ぼろぼろだったの、正直。」
だいちは母の言葉を隠れて聞く。
知っている。仕事から帰ってきて、2人も育てて、
でも、ずっと笑顔で。
たまに、1人で泣いていた。
母「なっちゃんが、お仕事頑張ってくれるから、余裕ある暮らしができて、感謝してもしれないの」
本当にそうだ。
夏樹の収入のおかげで、生活できているし、
学校にも通えてる。
兄として申し訳なかったが。
夏樹「何遠慮してんだよ、だっさ。家族の金だろ。誰が稼いでるとか関係ないの」って言われた。
少しでも支えられたら。
俺じゃ足りないから、
もっと、心の支えになるような人が、現れたら。
見つけたかもれないのに、
きっと、そのことで今、ボロボロになってる。
こればっかりはどうにもならない。
母「でもね、なっちゃんがなっちゃんでいてくれれば、それだけで幸せなのよ。
そう思ってくれる人、お母さん以外にも、ちゃんといるからね?」
何も事情を話してないのに、
全部知ってるかのよう。
ガチャ、とドアを開けて、部屋を出た。
母「なっちゃん」
お菓子一緒に食べよ?
うん、とうなづいた。
仲良く家族でおやつを食べて、
寝る前、だいちの部屋に夏樹がひょこっと入ってきた。
だいち「どした?寝れねーの?」
夏樹「…しちゃった」
だいち「…ん?」
夏樹「キスしちゃった」
だいち「誰に」
夏樹「…裕翔くん」
だいち「え。」
だからか、動揺してたの。
それで、泣いてたのか。
夏樹「友達…にはもうなれない、よね」
だいち「キスぐらいよくね」
夏樹「よくない」
だいち「キスしたことあるやつなんて腐るほどいるけど」
夏樹「彼女には絶対言わない方がいいよ」
だいち「ぴゅあだからなぁ、夏樹は。女とはやるとこやってるくせに」
夏樹「…それ役だし、フリだし」
清純派女優も、正統派アイドルも、
役で触れ合ったけど、
触れ合っても、心はどうにも動かなかった。
夏樹「もういい、だいちに相談した俺がバカだった」
だいち「いい方向になるかわかんないけど、
ちゃんと考えてくれるんじゃねえか、その子なら」
夏樹「知ってるの?裕翔くんのこと」
だいち「いいや、その子は知らない」
けど、晴翔の弟だし、晴翔が大事にしてる弟だし。
だいち「まあ、夏樹を傷つけたらどこのどいつだろうと…」
夏樹「まじで言うんじゃなかった」
眉に皺を寄せるも、さっきより明るい表情に戻った夏樹。
だいち「1人で抱え込むなよ、なんでも」
夏樹「うん」
18歳には背負ってるものが多すぎて、全部肩代わりしてやりたいけど。
夏樹、お前じゃなきゃ、ダメだから、のしかかってるんだぞ。
仕事も、恋愛も。
続く