気がつかない温かさ

昨日は、何もしなかった。

そのあと、すぐに顔を上げて、ごめん。といい、普通にバラバラでシャワー浴びて、井間さんの服着て、くっついてねて、腕枕してもらって……

とにやにやしながら昨日の思い出に浸っていると。

 

柚葆「芽衣、早く井間のやつと別れろ」

 

柚葆が訳わからないこと言ってる。

 

芽衣「…なんてぇ?」

 

柚葆「あいつ、浮気してる」

 

集まっていたいつもの6人。みんな柚葆の方を一斉に見た後、芽衣の方を見ます。

芽衣はヘラヘラ笑って。

 

芽衣「嘘ぉ〜、井間さんが?するわけ」

 

柚葆「してるの、まじで、この目で、見たの!茶髪の!ゆったりした服着た小柄な女と!手を繋いで!歩いてるのを!!!」

 

菻はいつもより一回り小さくなったのではというぐらい体を縮めています。

 

愛華「知り合いに、弁護士いるわよ?」

 

由莉「うん、訴えちゃえば?」

 

芽衣「や、やめよ?とりあえず、ね?私が、井間さんと話してみるから」

 

芽衣は同様することなく、いつも通りに受け答えします。

 

葉子「…びっくりしないの?」

 

芽衣「びっくりしてるよー!そりゃー!でも、してたら別れればいいしょ?だからいいの」

 

由莉「別れるの、悲しくない?」

 

芽衣「ん〜、ざんねーんイケメン紳士だったのにー…って思うかな、
私のこと好きじゃない人、どうでもいいから!悲しくないかな!」

 

メンタル最強というか…人に執着しないんだ、この子。

ああ、こうなると思った。と、菻は頭を掻きます。

 

柚葆「…さっぱりしてんね」

 

芽衣「まあ、どうだっか報告するね!じゃ!」

 

柚葆は自動販売機の前に立ち、いつものココアにするか、新商品のカフェオレにするか…悩んでいます。それと一緒に、芽衣のことを考えます。

 

ま、芽衣が落ち込んでなければいいんだけど。いいんだけど…このままあっさり別れるのも違うんじゃないかな…

啖呵切っといて言えたことじゃないけれど、自分だって、井間が浮気すると思えない。

 

カシャン、隣から自動販売機にお金が入れられる音が。

ガコン。

井間さんじゃん…

 

井間がココアを取り出し、柚葆に差し出しました。

 

井間「これ、好きだよね?」

 

柚葆「…え、何で知ってる」

 

井間「芽衣が、柚葆はココアばっかり飲むの〜って言ってたから」

 

柚葆「私の好み覚えるより、彼女のこと大事にしなさいよ…っていうか私はカフェオレ買おうか悩んでたんだけど?」

 

井間「新しいのに目移りしても、いつものがよかった〜って後悔するでしょ。」

 

そう言って、井間は自分用の温かいコーンスープを飲みました。

 

柚葆「…自分は目移りしてるくせに」

 

井間「…それの口止め量のつもりなんだけど」

 

柚葆「こんなの足りなすぎるから?それに、もう言いましたー振られるのも時間の問題ねっ!自分のモテモテさにあぐらかいてるバチが当たったのよっ!」

 

井間「…そんなつもりはないけど…そっか。言っちゃったか」

 

柚葆「当然!誤魔化せるわけないでしょ、あんな堂々と」

 

井間「まあ、うん、そうだね」

 

井間はゴニョゴニョ言いながらコーンスープを飲みました。

 

柚葆「…何か言いたいことあんの?」

 

井間「いや、あとは芽衣と話す」

 

柚葆「待ちなさい、私に言ってみなさいよ」

 

井間「…何で?」

 

柚葆「友達だからよ。場合によっては話せないくらいめちゃんこにしてやるけど」

 

柚葆は手をポキポキ鳴らして井間を睨みつけます。井間は苦笑いして、

 

井間「友達思いだね」

 

柚葆「いいから、ほら」

 

井間は渋々。真っ直ぐ柚葆を見て、 

 

井間「昨日の人、足悪くて、補助のために、手、繋いでた…で、その人…」

 

コーンスープの間をペコペコさせながら、一呼吸置きます。

柚葆は構え直します。

 

井間「姉…なんだよね、」

 

柚葆「姉?」

 

井間「義理だけど。俺の兄貴の嫁」

 

柚葆「えええええええ!?早く言いなさいよ!?」

 

井間「そんな…家族の問題だし…ペラペラ喋ることじゃないでしょ?恥ずかしいじゃん…」

 

柚葆「わーーー!ごめんなさい!めっちゃ酷いこと言って…」

 

井間「でも、血繋がってないし、浮気っていう人はいるよ、俺だって逆の立場だったら嫌だし」

 

柚葆「べべべ弁解します!芽衣に…電話…」

 

柚葆が急いでケータイを取り出すと、その手をそっと押さえます。

ビクッとする柚葆。


 

井間「…大丈夫。自分で話すから」

 

にこ、と微笑んだ顔は笑顔ではありませんでした。

コーンスープを飲み切り、ゴミ箱に投げます。井間は寂しそうな顔を残し、背を向けて去りました。

 

柚葆「……」

 

大変なんだ…井間さん。家族のことも。

それなのに、芽衣や芽衣の友達の私たちにも気をかけて。

新しいものになんか目をやる暇なんてないじゃん。

 

大切なもの、取り上げることになってしまうのか。

男は軽い…って自分の考えじゃん。勝手な。理由も知らず…そう、理由、知らない。

 

柚葆はもらったココアを開けて飲みました。

いつもの味。まだあったかい。

いつもの温かさ、自分も欲しくなりました。

 

今、いる人。ちゃんと向き合わなきゃ。

 

続く

 

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