愛の力

夏樹(FUYU)主演、愛斗プロデュースのバレエミュージカル『THE SWAN』は千秋楽をむかえました。

そして、その日、愛華達6人も見に来る予定。もちろん由莉も。
葉子は5回目らしい(FUYU推し)。

 

愛斗「いよいよ最後だね」

 

夏樹「はい、最後まで引き締めてがんばります」

 

愛斗「最後なんだから最高に楽しんで
それに、本当に良くなったよ…バレエもだけど姫に、本当に恋に落ちてる目になった」

 

夏樹「…愛斗さんのマネっすよ、なんやかんや」

  

愛斗「え?僕の?いつそんな顔したかな」

 

愛斗は首を傾げます。夏樹はニヤニヤしながら。

  

夏樹「最近いい感じなんですね…」

 

愛斗「もーからかわないで」

 

夏樹「これからも勉強させてください?」

 

愛斗「…バレエ以外教えたつもりないけどね…逆に、教えてもらった側じゃない?僕」

 

夏樹「そうっすか?」

 

思っていること、核心的なことちゃんと伝えたら、こんなに幸せだってね?

 

本番に向けて意識を高めていると、
スタッフがドタバタ走ってきました。

 

スタッフ「大変です!プロデューサー!」

 

愛斗「ん?どしたの?」

 

スタッフ「白鳥役の役者が高熱で、出られないと…」

 

夏樹「え!」

 

愛斗「うそ…」

 

白鳥役は準主役のような存在、彼がいなければ物語は成り立ちません。

 

スタッフ「…白鳥の代役できる人…いないですよね…」

 

周りはざわつき、落胆の声を漏らす者も。

中止になってしまう…

最後の日に急に中止なんて…もう、こちらに向かっている観客もいるだろう。
それに、みんな観に来るのに…
夏樹もかなり動揺して、唇が震えています。

愛斗は拳を握り、身を奮い立たせ。

 

愛斗「…みんな、聞いて」

 

夏樹「…愛斗さん…!」

 

 

愛華達6人が会場につきました。

みんなに心配かけないために愛華も由莉もちゃんといきました。

 

菻「すごーい!初めてこんなとこ来た!」

 

芽衣「このミュージカル愛華のお兄さんプロデュースなんでしょ?」

 

愛華「まあ、でも、出ないから、愛斗」

 

柚葆「世界の一川愛斗のバレエも見てみたいのに」

 

愛華「今踊れないんじゃないかしら?」

 

柚葆「踊れない???」

 

由莉「え?」

 

愛斗が踊れないの、誰にも言ってないんじゃなかったっけ

 

由莉「知ってたの?踊れないの」

 

愛華「日本に帰ってくるときは大体スランプの時だから」

 

由莉「そ、そうだったんだ」

 

愛華「私たちが中学生の頃もそうだったのよ
そのあと調子上がって有名になったみたいだけど」

 

由莉「知らなかった、初めて会ったときだよね?私」

 

愛華「そうよ、それに、愛斗のお顔がね、スランプの時の顔してたのよ」

 

由莉「…さすがだね」

 

愛華「妹だもの」

 

あ、普通に話せた。ほっとする由莉。

愛華は由莉の顔をまじまじと見ます。顔色、良くなった、前より…というか、今まで1番ぐらい、キラキラしてる気がする。

 

由莉「愛華…」

 

愛華「なに?」

 

由莉「今日、一緒に帰れる?」

 

愛華「…もちろん」

 

愛華も話したいことがあるみたい。

 

話していると場内のアナウンスが、

アナウンス『みなさま、本日はバレエミュージカル、『THE SWAN』にお越しいただき誠に有難うございます。

本日、白鳥役の役者が、体調不良のため、本公演は急遽代役を立てて公演いたします。

どうか、ご理解いただけますようお願いいたします。』

 

会場がざわざわし、愛華達6人も驚きます。

 

葉子「は、白鳥様が代役??」

 

柚葆「え、代わりなんてそんな急に務まるの?」

 

芽衣「FUYU君が2役やったりして」

 

葉子「ネタバレになるけど2人同時に出るからむりだよ」

 

菻「えー、誰だろ、楽しみ」

 

代役が誰だろうと盛り上がっているうちに舞台の幕が上がりました。

FUYUが演じる黒鳥と姫が舞踏会で出会い、2人で踊り、2人に恋が芽生えるシーン。
その2人を割ってはいるように白鳥が可憐に登場します。

いよいよその登場のシーン。

 

照明が落ち、舞台の真ん中にスポットライトが集まります。


そこに登場した白鳥は……

 

 

 

 

 

会場がざわつきます。

 

透き通るような白い肌、スラリとした長い手足に、凛とした立ち姿。
その圧倒的オーラに舞台上の役者も息を呑みます。

 

 

 

 

 

由莉「愛斗くん…?」

 

愛華「……」

 

ゆっくり、まるで翼を広げるように、両手を広げ、
白鳥の優雅な舞いで会場を魅了します。

愛斗が…踊れてる…
すごく、幸せそうに

由莉の目からすーっと雫が流れ、
愛華はそっと、ハンカチで涙を拭ってあげました。

 

 

公演前、白鳥役が出られないと連絡があり、誰もが中止を覚悟します。

 

愛斗「…みんな、聞いて」

 

夏樹「…愛斗さん…!」

 

愛斗「…僕が、白鳥になる…いいかな」

 

スタッフ、演者、全員の顔がぱあっと明るくなります。

 

スタッフ「本当ですか!プロデューサー!」

 

愛斗「…振りも、セリフも、動きも今まで彼が作ってくれたのやるから…役者、素人だけど…」

 

スタッフ「ありがとうございます!では、そのまま公演するということで!」

 

愛斗「はい、お願いします」

 

スタッフは先ほどよりも軽い足取りで走っていきました。

 

夏樹「…愛斗さん…ありがとうございます…絶対、中止にしたくなくて…」

 

愛斗「…僕も…絶対成功させるからFUYUくんは、いつも通り、ね?」

 

愛斗は急いで衣装に身を包み、大きく深呼吸をしました。

 

愛斗「見ててね」

 

 

無事公演が終了し、全公演走り抜けたFUYUはカーテンコールで大泣き。
そんなFUYUを見て葉子もギャン泣き。

 

愛斗は大きな花束を持って、FUYUに渡しました。

 

愛斗「ありがとう、座長」

 

夏樹(FUYU)「愛斗さんっ、本当にありがとうございますっ」

 

大泣きするFUYUを抱きしめ頭を優しく撫でる愛斗。

 

観客の大きな拍手に包まれ、『THE SWAN』は幕を下ろしました。

 

愛斗から楽屋遊びにおいでよ
と連絡が来て、恐る恐る楽屋にやってきた6人。

 

夏樹「…え?なんでいるの」

 

葉子「あぁ…尊い…やっぱり同じ空気吸っちゃだめだ」

 

夏樹「相変わらず訳わかんないな…理玖の彼女」

 

葉子「5回も見に行ったよ」

 

夏樹「…そりゃどうも」

 

菻「…え?なんで?知り合いなの?」

  

そうだ、葉子以外、FUYUの正体が、理玖の友達ってこと知らないんだ。

  

葉子「あ、れだよ、握手会!めっちゃ行ってて」

 

夏樹「そ、そうそうそうー」

 

菻「ほーん」

 

とりあえず菻は単純なので誤魔化せました。

 

愛華「FUYUさんお疲れ様です、兄がお世話になりました。」

 

夏樹「…兄?もしかしてプロデューサーの妹さん?!」

 

愛華「似てますよね」

 

夏樹「や、めっちゃそっくり…こちらこそ、お世話になりました…」

 

愛華「いえいえ…愛斗いますか?」

 

夏樹「あの、奥の方に」

 

スタッフや演者に囲まれて写真を撮ったり、談笑していましたが、由莉を見つけると

 

愛斗「…由莉ちゃん!!」

 

ぴょこぴょことこちらに走ってきます
化粧も衣装もそのままですが、舞台上とはまるで別人。

 

抱きつこうとしますが、

 

愛斗「あ、ごめん着替えてないから、汗だくで…」

 

と、愛斗の言葉を遮り、由莉は愛斗を思いっきり抱きしめます。
おっと少し後退りする愛斗。

 

愛斗「由莉ちゃん??」

 

由莉「…よかった…愛斗君…っ、戻ってこれて…っ」

 

声を詰まらせるほど、涙を流す由莉。
震わせる肩を抱きしめ。

 

愛斗「…嬉しくて…泣いてくれてるの?」

 

由莉「っうん…っ」

 

愛斗「ありがとう…由莉ちゃん」

 

泣きじゃくる由莉の頬に両手を添えて、ちゅっ、とキスをしました。

楽屋にいるみんなはきゃー!と盛り上がります。

 

 

由莉「愛斗君…みんな見てるからぁ」

 

愛斗「…由莉ちゃんが可愛かったから、つい」

 

ちらっと愛華の方を見る愛斗。
ふーっとため息をつく愛華、その後、ふわっと優しい笑みを愛斗に向けました。
愛斗は、満足げな顔で頷き、返事をしました。

 

愛斗「由莉ちゃんもメイク落とそー」

 

由莉「嫌!絶対嫌!」

 

愛斗「可愛いから大丈夫だよ〜」

 

柔らかい雰囲気に包まれた楽屋。

皆に愛された舞台は、関わったすべての人の希望の光となる作品になりました。

続く

 

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