2年前

高校2年の秋、

今から2年前、

放課後、部活前、

坂本と晴翔は教室の窓から頭を出し、前髪を風に遊ばせていました。

 

 

坂本「…彼女欲しくね?」

 

晴翔「あい以外はいらねえ」

 

坂本「はいはい、そうでした」

 

窓から、手を繋いで帰るカップルたちを眺め、2人はため息をつきます。

坂本と晴翔は柔道部と空手部。

部活でよく顔を合わせていたらいつのまにか恋バナするほど仲が良くなってました。

 

晴翔「さかも…由莉のことまじなの」

 

坂本「…かわいいじゃん…」

 

晴翔「おお…」

 

坂本「でも…俺のことは見向きもしないだろうな…イケメンしか付き合えないよな」

 

晴翔「いつから…好きなん」

 

坂本「ずっと、入学式で見つけて、いいな…って思ってたけど…緊張して話せないし…」

 

晴翔「ガチじゃん」

 

坂本「ガチだって」

 

晴翔「やーめとけお前、由莉だぞ、お前の器じゃ足りねえよ、昔……」

 

坂本「昔?」

 

晴翔「あ。いや…」

 

さすがに由莉の今までの恋愛事情をバラすわけにはいかない…

 

晴翔「あの、ほら、高校中の男が順番待ちするほど男に困ってないやつだぞ?」

 

坂本「それ言ったら晴翔もじゃん。」

 

晴翔「…あいは彼氏いたことないから大丈夫でーす」

 

坂本「そっちの方がチャンスねーだろ」

 

晴翔「んだと??」 

 

晴翔が坂本の髪をぐしゃぐしゃにします。

 

坂本「うわ!やめろよお!」

 

その様子をクスクス笑いながら見ている由莉。

 

由莉「なーに?順番待ちしてるの?さかも」

 

坂本「うわああああああ!!!」

 

坂本の大きな体がすっ飛び尻もちをつきました。

 

由莉「さかもみたいなタイプ、私のこと苦手かと思ってた」

 

坂本「ぜ、全然、あの、喋る時、緊張するけど、す、好きです…あ」

 

思わず告白してしまった。坂本は声にならない声を発し、晴翔は口をぱくぱく。

由莉はにっこりして

 

由莉「付き合う?」

 

坂本・晴翔「はい?????」

 

驚きすぎて身を寄せ合う2人。

 

晴翔「おま、彼氏は?」

 

由莉「さっき別れた」

 

晴翔「さっき…」

 

晴翔は異世界のものを見ている気がしました。

坂本は勢いよく立ち上がり。大きな声で、

 

坂本「お願いします!!」

 

晴翔「試合前か」

 

由莉「ふふ、よろしくね〜」

 

 

由莉はヒラヒラ手を振って教室を出て行きました。

 

晴翔は呆然としている坂本をおいて、由莉を追いかけます。

 

晴翔「おい、由莉、今のほんとか??」

 

由莉「うん、晴翔の友達でしょ?いい子じゃん」

 

由莉のことは友達想いのいいやつだし、中学から友達だけど、どうも恋愛については軽い感じがして信用できない晴翔。

 

晴翔「おい、さかもで遊ぶなよ、あいつピュアピュアなんだから」

 

由莉「なに、私は純粋じゃないって言いたいわけ?」

 

晴翔「だって…お前はレベル高すぎるんだよ」

 

由莉「そーねえ、晴翔くんはチューもしたことないもんね?」

 

晴翔はこの時から由莉のおもちゃ。

下から顔を覗き込み、ニヤニヤしながらからかいます。

 

晴翔「はあ?キスぐらい誰とでもできるわ!」

 

愛華「あら、はるそうだったの」

 

ビクッと後ろを振り返ると冷たい眼差しを送る愛華が

 

晴翔「ち、違う違う違う!!しないです!できないですって!!語弊が!!」

 

愛華は無視してスタスタと通り過ぎて行きました。

 

晴翔「はああああ、最悪…」

 

由莉「そーね、大事な愛華ちゃんとはチキってできないだけだもんね?あながち間違ってないじゃん?」

 

晴翔「はー、もう、なんでもいい、部活行ってくる」

 

晴翔はよろよろしながら歩いて行きました。

廊下ですれ違う生徒は負のオーラ全開の晴翔を、

二度見してサーっとを避けました。

 

由莉「ほんと一途だね」

 

愛斗に教えられた、寂しさの埋め方は、どこか空虚は感じがして、

しかも、愛斗じゃないと、あの満たされ方はない。他の寄ってくる男はそんなもんって感じ。

もう純粋な恋はできないって思ってたけど

坂本となら、できる気がする。

これは希望だった。

 

勘違い

 

由莉の希望通り、穏やかな日々が続いた。

 

愛華と晴翔と、そして坂本と4人で普通の青春を送った。

 

純粋で一生懸命な坂本に愛されて、今までの自分とさよならできた気がした。

 

付き合ってから一年が経とうとしていた。

 

男子生徒「由莉ちゃーんいつ彼氏と別れるの?」

 

由莉「そんな予定ないですー」

 

男子生徒「こんなイケメンが口説いてるのに?」

 

由莉「ははは、間に合ってまーす」

 

ぐいぐいくる男に愛想笑いでかわす由莉、

 

坂本「由莉」

 

不機嫌そうな坂本が近づいてきました。

由莉はハッとして男子生徒からパッと離れました。

 

坂本「由莉、ちょっときて」

 

由莉「なに。」

 

坂本「いいから」

 

坂本は大きな手で由莉の腕を引っ張ります。

また怒らせた…

 

屋上で話す由莉と坂本。

やっぱりさっきのやりとりを見てたみたい。

 

由莉「話しかけられるだけでしょ…」

 

坂本「いや、距離近いし、あんな愛想振りまく必要ないじゃん」

 

由莉「無視すればいいの?じゃあ」

 

坂本「そうは言ってないだろ、でも…たまに…ぼーっとしてる時とか、他の好きなやつのこと考えてんのかなって」

 

由莉「もう…それはないって…」

 

愛華への想い、忘れようってこっちは散々悩んで、他の人で寂しさ埋めるのもやめて、坂本に向き合っている…つもりなのに

最近ずっとこの調子。

初めは嫉妬されるものかわいいと思っていたけど、

信用されてないのかな

今では寂しい気持ちがじわじわ広がる。

 

由莉「あのさ…そんな信用できない?私」

 

坂本「…ちが」

 

由莉「だって、何もないって言ってんのに、ずっと疑うじゃん」

 

坂本「それは…」

 

坂本の苦しそうな顔。眉間に皺を寄せてため息をつきます。

またか、

由莉の中で何かがポキッと折れたような

 

由莉「別れよ…っか」

 

坂本「え、待って」

 

由莉「もう、疲れた。次の子はもっと大人しい子にしな」

 

坂本「由莉、待って」

 

坂本はがっしりとした腕で由莉を後ろから抱きしめますが、

由莉はその腕をスッと外し

 

由莉「もう無理」

 

これ以上

そんな苦しい顔しないでよ。

寂しいじゃん。

 

 

由莉は一人で帰ろうとしていると

 

愛華「あれ?由莉1人なの?」

 

おそらく晴翔を待っているだろう愛華がトコトコとやってきました。

 

由莉「あ、うん」

 

愛華「坂本くんは?」

 

由莉「…あー、別れ。ちゃった」

 

愛華「…あら」

 

愛華は由莉にピッタリくっつき

 

愛華「由莉、とっても悲しそうよ?」

 

由莉「え」

 

確かに、落ち込んでる…な、今までそんなことなかったけど

割と、長く付き合ってたし。

どっちかっていうと、申し訳気持ちが。

 

由莉「やっぱ私、普通の恋愛無理なのかな」

 

愛華「どうして?」

 

由莉「相手のこと、不安にさせちゃうんだよね、まあ、今まで好きでもない人と遊びまくってたし、私の好きを信じてくれる人なんていないよね…」

 

由莉は膝を抱え

 

由莉「…大事にしてた…つもりだったんだけど」

 

愛華はか細い腕で由莉を抱きしめ

 

愛華「あいは由莉の隣にずっといるからね」

 

由莉は蓋をしていたはずの想いが溢れてきます。

ああ、これのせいだ、

この気持ちが消えない限り、先には進めない。

 

由莉「…ありがとう」

 

消せるかな…

 

 

愛華は由莉と一緒に帰ったため、晴翔は置いてけぼり。

 

晴翔「あい〜どこ行ったのお〜」

 

晴翔は暗くなるまで、学校中を探したそうです。

 

ドンマイ、晴翔。

 

後ろから足音が、

え…やば、ひ、ひとだよね?幽霊…とかじゃ…

恐る恐る振り向くと

 

晴翔「あれ?さかも???こんな時間まで残ってたの?」

 

坂本「…別れた」

 

晴翔「ん?」

 

坂本「由莉と、別れた」

 

晴翔「…は?」

 

坂本「俺が、不安でさ、由莉のこと、疑うようなこと最近言いすぎて」

 

暗くて表情がよく見えなくても、落ち込んでいるのがわかる沈んだ声。

 

坂本「晴翔が言ってたみたいに…俺じゃ器が足らなかったかな」

 

晴翔「あ…」

 

自分の余計な一言で…自信無くさせてしまった…

友達なら…全力で応援すべきだった

 

晴翔「ごめん…」

 

続く

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