後押し

 

愛華と晴翔が海に行っている頃、家に着いた由莉。

 

愛斗「おかえり~」

 

ベットを背もたれにして地べたに座っている愛斗。

由莉におかえりのハグをします。

いつもはやめて、と剥がされますが、今日はギュッと返事をする由莉。

 

愛斗「…どした?甘えたさん?」

 

由莉「…晴翔に愛華好きなことバレた…どうしよ…」

 

愛斗の胸の中にうずくまる由莉。

愛斗はグッと由莉を抱き上げました。

 

由莉「ちょっと!降ろして!!」

 

愛斗「えい!」

 

バサっ、そのままベットに2人でダイブ。

ぬいぐるみとクッションに埋もれ、もふもふした感触に包まれます。

 

愛斗「僕の一本勝ちぃ」

 

由莉「誰が柔道やるって言った」

 

愛斗が由莉にかかったクッションを避けて目線を合わせ、

 

愛斗「晴翔くんは…由莉ちゃんが心配するようなことしないよね?」

 

晴翔なら、由莉の気持ちを愛華にばらすなんてこと、絶対しない。

でも、愛華のこと恋愛的に好きな私が、愛華のそばにいること、許してくれるかな。

晴翔、流石に嫌がるかな…

 

愛斗「由莉ちゃんは、晴翔くんのことも大事なんだね」

 

由莉「…当たり前じゃん、ずっと見てきたんだもん」

 

愛斗「だったら、晴翔くんも、由莉ちゃんの気持ち、大事にしてくれるよ」

 

 

由莉の頬を触りながら天使のような笑顔を向ける愛斗。

そのままふわっと由莉を抱きしめました。

 

男女の友情

 

気分転換に街をふらふらしていた由莉。


そこに難しい顔でスーツを睨んでいる晴翔が


由莉「…何やってるの」


晴翔「…おわぁ!由莉…」


由莉「そんなおしゃれなスーツどこに着てくの」


晴翔「…愛華の…誕生日会に、着て行く服なくて」


由莉「…なるほど」


晴翔「なんで服ってこんな高いんだよ、でも、いいもの着てかないと…浮くよな」


由莉「確かにね」


晴翔「もう少し考えよっ」


いつも通りに会話できた。


由莉・晴翔「ねえ」

     「あ…」 

     「先にいいよ」

     「……」


由莉「なんで全部同じこと言うのよ」


晴翔「…同じ人このこと、好きになるんだし、似てるんだろ、俺ら」


由莉「……」


晴翔「時間ある?少し喋ろ」

2人は公園のベンチに腰をかけました。


晴翔「ん。」


晴翔は飲み物を由莉に差し出しました。


由莉「…これ、私中学の頃好きだったやつだ」


晴翔「そのころ、あいがしょっちゅうお前の話ししてたから」


由莉「へー…」


由莉は蓋を開け、思い出の味を味わいました。

生ぬるい風が2人にまとわりつきます。

 

由莉は口を開き、ポツポツと話し始めます。

 

由莉「晴翔。言ってたじゃん、付き合ってる人の近くに、その人のこと好きな人がいるのやだって」

 

晴翔「ん…まぁ、言ったけど…」

 

由莉「私、近くにいるの、嫌でしょ」

 

晴翔「…いや…」

 

由莉は女だから…なんて言えません。

 

由莉「…ごめん、困るよね」

 

晴翔「…確かに、勝手にキスされたりしたら…困るな」

 

由莉「あの時はまじでしてないから、安心して」

 

晴翔が頭を掻き、んーーーと考え、ぼそぼそ話し始めます。

 

晴翔「…由莉が…愛華と…ってか俺の友達でもあるじゃん、いきなり疎遠になるとかありえねぇからな?」

 

晴翔は指をいじりながら

 

晴翔「…でも、由莉が本気出して愛華狙ったら、もう、俺なんてけちょんけちょんに叩きのめされるだろ、うわぁ…」

 

由莉「なにそれ」

 

由莉はぷっと吹き出しわらいました

 

由莉「奪わない…というか奪えないから、
今まで通り、愛華と友達で、いさせてくれたら嬉しい」

 

晴翔「そんなの、俺が許可することじゃねーよ」

 

由莉はその言葉にホッとしてジュースを口に含みました。

 

由莉「…心広いじゃん」

 

晴翔「お前がな?」

 

由莉「私?」

 

晴翔「…どんな気持ちで、俺の相談聞いてたんだよ…」

 

晴翔は申し訳なさそうな顔をして、また手をいじり始めました。

 

由莉「もちろんすぐくっつかないように、たくさん意地悪させていただきましたけど?」

 

晴翔「は?ふざけんな、そうだったのかよ」

 

由莉「愛華をいろんな人間に会わせたかったからね」

 

晴翔「くそー…俺がどんだけひやひやしてたか知ってるだろ…」

 

由莉「それでも…これ悔しいから言いたくないんだけど、」

 

晴翔「なんだよ」

 

由莉「愛華はね、晴翔しか見てなかったんだよ?どんないい男と会わせても、全部無視。」

 

晴翔「…本当に?」

 

由莉「これいうとあんたが調子乗るって思ってたから言いたくなかったんだけどさぁ」

 

晴翔「や、たまたま、じゃないの?」

 

由莉「…あんたは調子乗るような人間じゃなかったわね」

 

晴翔「そうか?俺よりいい人間なんていくらでもいるから…」

 

由莉「もう少し自信持てって言われない?」

 

晴翔「それに…由莉の方が、もっとスマートでかっこいいと思う…し、俺、情けないとこしか見せてない気がするし、愛華に」

 

由莉は確かにっと笑った後。

 

由莉「…何回も言ってるけど、あんたたち2人の間には、誰も入り込めないのよ」

 

晴翔「そうか?」

 

由莉「2人見てて、運命ってあるんだな…って、初めて思ったもん…」

 

だから…ってわけじゃないけど黙って、諦めるつもりだったのにな…
愛華にバレてないだけよかったけど。

 

由莉「愛華、困らせたくないし、私に勝算なんてないし…」

 

由莉は晴翔に向き合い

 

由莉「私の気持ちは、内緒にしててほしいな」

 

由莉の髪を風が優しく撫でます。


晴翔は少し苦しそうな顔をして

 

晴翔「…お前は、それでいいんだな?」

 

由莉「…そうしたい」

 

晴翔は由莉の返事を噛み締めるように

 

晴翔「…わかった。忘れるわ、今まで通りな」

 

由莉はにこっと笑みを浮かべ、

 

由莉「でも〜、愛華のこと泣かせたら、私も本気出すけどね〜」

 

晴翔「やめろよ!…うわー、身近に超強敵」

 

由莉「ふふ、愛華を大切になさいよねー」

 

晴翔「当たり前だろ、お前が本気出しても、愛華は渡さねえ」

 

由莉「いうねえ…晴翔くん」

 

 

爽やかな風が背中を押してくれるようでした。

 

一歩進んで一歩下がる

 

家に着き。

 

愛斗「由莉ちゃ〜ん、お帰りぃ〜」

 

 

もうすっかり馴染んでいる愛斗。
クッションにうずくまり、ニコニコ手を振っています。

 

由莉「愛斗くん」

 

愛斗「なぁに?」

 

由莉「私ね、愛華のこと、もうすっぱり諦めるわ」

 

愛斗「…え?」

 

由莉「まー…元々ね、実らせるつもりはさらさらなかったし?
晴翔と話して、やっぱり、あの2人のカップルが好きだし」

 

クッションを放し、由莉をまっすぐ見つめ

 

愛斗「…由莉ちゃんの好きはどこに行くの?」

 

由莉は視線を外し、少し俯きます。

 

由莉「私は…」

 

少し唇を噛み。んー、と考えた様子を見せ、わざとらしく明るい声で

 

由莉「ひさびさに彼氏でも作ろうかな?…なんて」

 

と、愛斗に背を向けて、着替えを取ろうとすると

ドン、と、後ろから壁ドンされる由莉。


振り返ると、いつもとは別人のような目つきで見下ろしてくる愛斗が、

 

 

由莉「…なに?」

 

愛斗「…彼氏なんていたの?」

 

由莉「…1人だけだけど…あとは男友達…だけど」

 

愛斗「…その子のこと、好きだった?」

 

由莉「…え…まあ…好きだ…っ」

 

愛斗の瞳から光が消え、由莉の腕を掴みます。

由莉の言葉を遮るように、噛み付くようなキスが降ってきて、息ができない。
いつもの優しい、柔らかい愛斗はどこへ?

無理矢理顔を離し、空気を求めます。

 

由莉「…っっ愛斗くん、っ苦しい…」

 

愛斗「嫌」

 

獲物を狙うような鋭い目つきで睨まれ、由莉はうろたえます。

 

愛斗の細くて長い繊細な指で、由莉の顔をガッと引き寄せ、再び口を塞がれ、

食い尽くされてしまう

息つくこともできない…

あまりの激しさに、ガクッと脚の力が抜けて、崩れ落ちそうになる由莉。

 

愛斗はハッと我にかえり由莉を抱きとめます。

愛斗にしがみつく由莉の手は震えています。

 

由莉「…っハア、ハア、ハア…」

 

愛斗「…由莉ちゃん…ごめんっ…」

 

すぐに返事ができません。

愛斗は優しく由莉を抱きしめます。

 

あ、いつもの愛斗だ…

 

由莉「…愛斗くん…」

 

潤んだ瞳で見つめました。

愛斗はそっと由莉の頬を包み、震える唇に触れるだけのキスをしました。

壊さないように、そっと。

 

そして、いつの間にか、今日も愛斗の腕の中に包まれています。

 

でも、今日は、
こんなに近くにいるのに
心の距離が遠すぎる

 

続く

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