夏樹「でさ、めっちゃわんこみたいにきゅるんきゅるんの笑顔見せてくるわけ、こんなの好きになるじゃん?」
だいち「…知らねえよ、ってかはなせ」
だいちに後ろから抱きつきながら頭をゴリゴリ押し付ける夏樹。
夏樹「…女に生まれたかった」
だいち「は?」
夏樹「そしたら、付き合えたかもしれないのに」
だいち「前まで別に付き合わなくてもいーって、言ってたじゃねーか」
夏樹「…今回は…違うもん」
だいち「…そうか」
だいちはぽんぽんと夏樹の腕を撫でました。
・
晴翔「…裕翔」
裕翔「…なに…」
晴翔「お前彼女できた?」
裕翔「え、は?できてねぇよ」
晴翔「…なんか流れてきたけど」
晴翔が見せてきたのは、夏樹とカフェにいる時の画像。
盗撮されて、SNSで拡散されている。
顔はあまり写ってないけど、
確かに自分たちだ。
裕翔「…これ盗撮じゃん」
晴翔「有名人だなぁ裕翔も」
裕翔「騒ぐことじゃなくね?ただの高校生なのに俺」
晴翔「こういうネタはみんな好きなんだよ…それより、相手どこの子?」
裕翔「しらねー」
晴翔「おい!裕翔詳しくー!」
弟の浮いた話は初めて、
晴翔も興味津々だけれど、
裕翔は黙って部屋に入ってしまいました。
ツンツンしてるし、人に関心なかった裕翔に好きな子できるなんて。
親心で、安心と嬉しさが込み上げました。
・
branchで一緒にご飯食べているところを盗撮された。
夏樹の顔はあまり見えてないけど、
裕翔も優勝したことで、今、話題の人だから、
かなり拡散されてしまった。
もちろん夏樹の学校の生徒にも広まり、
女子生徒からの質問攻めがすごい。
女子生徒「夏樹ちゃんの彼氏なの?!」
女子生徒「金山くんってどんな人なの?」
夏樹「いや…他人の空似だよ…」
女子生徒「えー…でも、この髪色なかなかいないでしょ」
夏樹「ち、違う人だもん!」
夏樹はガタンと立ち上がり、
教室を出てしまいました。
女子生徒「なにあれ」
女子生徒「かんじわるぅ」
女子生徒「夏樹ちゃん、理玖と付き合ってるかと思ってた」
理玖「俺?」
女子生徒「だってベッタリじゃん、学校いる時」
理玖「や、俺、彼女いるし。大学生の」
女子生徒「それは知ってるけどー」
男子生徒「そういえばさ、夏樹ちゃんってあいつに似てね?」
男子生徒「あ!あの取材してた俳優だろ?前から思ってた」
女子生徒「FUYUのこと?」
理玖はギクっと震えた。
バレたらやばい…学校来れなくなる…
理玖「に、似てないよぉ?だってほら、夏樹の方がチビだし、FUYUくんみたいに、落ち着いてないし、ツンツンだし…」
廊下から冷たい視線が、
夏樹が睨みつけていた、
ふんっとまた廊下を歩き出した
理玖はあわあわして、夏樹を追いかけました。
・
夏樹は屋上に登り、ウィッグを取って、風に当たります。
やばいなぁ…バレたら、理玖と同じ高校は通えなくなるな…
芸能科あるところ調べておこうかな。
理玖「夏樹!」
バンっと屋上のドアが開き、
慌てたように理玖が詰め寄ってきます。
理玖「なんで頭とってるの!」
夏樹「なんか邪魔で」
理玖「もー…バレたら一緒の学校通えなくなるじゃん」
夏樹「…うん」
ウィッグを被せ直す理玖。
されるがままで、斜め下を向く夏樹。
理玖「…金山裕翔くん?」
夏樹「…なんで、金山くんの名前がでてくんの」
理玖「いつからあんな仲良くなったの?」
夏樹「別にいいじゃん」
理玖「やめてよ、たぶらかすの、大事なお客さんの弟なんだから」
夏樹「いいだろ、仲良くしたって」
理玖「仲良くしたいなら、普通の夏樹のままで会いなよ、夏樹可愛いんだから、期待させちゃダメだよ?」
夏樹「わかってるよ…俺可愛いからなぁ…」
理玖「ねえ、俺真面目に」
ぶーぶー…スマホが鳴りました。
裕翔からだ。
夏樹「…もしもし?」
裕翔『夏樹さん?あの…すみません写真』
夏樹「いや…こちらこそごめん」
裕翔『え、なんで謝るんすか』
夏樹「…ごめん」
申し訳なさがぐるぐる、背中で渦巻いてる。
わかってた。
騙してるって、理玖に言われてなくても。
わかってた。
裕翔『今度お詫びさせてください』
夏樹「そんなわざわざ」
裕翔『でも…』
夏樹「いいって」
後ろめたさからつい全部拒否の返事してしまった。
裕翔『…すみません…嫌っすか』
寂しそうな声。
言葉は短いけど、
しょんぼりしているのが目に見えるようにわかり、
チクリと胸に刺さる
夏樹「嫌じゃない」
裕翔『…そっすか』
夏樹「行く、今日」
裕翔『じゃあ、〇〇駅で』
結局、会いたさには敵わない。
口元が緩みそうだけど、
理玖がいるから、ぎゅっと唇を結んだ。
理玖「…夏樹、今回でちゃんとほんとのこといいな?色々始まる前に」
夏樹「もう始まってんの、今さら無理」
理玖「夏樹」
夏樹「わかってるって、女の格好のまま恋愛しちゃダメってことぐらいっ」
理玖「違うって」
少し荒げた声。
理玖が怒った声を出すなんて。珍しい。
あぐらをかきなおして、
理玖「別人で、恋愛するなって、言ってんの」
夏樹ははぁ、とため息をつき。
夏樹「理玖には関係ない」
みんなだって、よく見せようと見た目も中身を変えて恋愛するじゃん。
なんで変えちゃダメなの。
俺は、こっちの姿で、
恋愛したいの。
…って強く意志、もてたらな。
やっぱり後ろめたさがある。
でも、騙し騙し、友達のままやっていけたら、大丈夫だろう。
続く