裕翔に会えないかな…と、電車登校を頑張る夏樹。
タオル、喜ぶかな…
早めに来て、裕翔の高校の最寄りで駅で降りてくるのを待ってみる。
こんだけ人いたら会えないだろう…けど…
しばらく待ったけど、一向に現れない。
諦めて、学校に向かう為、電車に乗り直そうとします。
ふと、顔をあげ、階段の方を見ると。
1番上、登り切ったところに、ふわっとした、茶髪の後ろ姿。彼だ。
夏樹「あ、あの!」
大声で叫んでも届くわけない。
夏樹「か、金山くん!!」
裕翔がぴくっと反応し、振り返ります。
裕翔「…ん、あ。」
裕翔がぱちっと目を開いて、夏樹に気付きます。
急いで階段を駆け上がる夏樹。
裕翔「この前の…大丈夫でした?あのあと」
夏樹「はい…ありがとうございます。助けてくれて」
夏樹は袋を裕翔に差し出します。
夏樹「これ」
裕翔「なんすか?」
夏樹「お礼」
裕翔「わざわざどうも…」
夏樹「いや、こちらこそ…」
裕翔「…俺の名前…知ってたんですか?」
夏樹はギクっとします。
そうだ、FUYUとして会ったんだ。
この前名前すら聞けなかったから。
夏樹「あ、し、調べて…」
裕翔「…あ、俺調べたら出てくんだ。はず…」
夏樹「大会…近いんですよね…頑張ってください」
裕翔「ど、ども…」
夏樹「…」
裕翔「…」
夏樹「……」
裕翔「…あの」
頬をかきながら沈黙を破る。
夏樹「はい」
裕翔「名前…なんて言うんですか」
夏樹「夏樹です…春夏秋冬の夏に樹木の樹」
裕翔「夏樹さん…夏樹さんか」
名前を呼ばれてむず痒い。
そろそろ通行の邪魔になりそうで、
夏樹「じゃ、じゃあ」
裕翔「はい。」
2人ともなんとなく照れ臭くなり、
夏樹は学校へ行く為に、電車を乗り直さなきゃいけないので、階段を下り、ホームへ。
裕翔もなんとなく後ろ姿を見守り、学校へ行こう…と前を向く時、男の人と肩がぶつかりました。
裕翔「いたっ…」
男は急いでいるようで、そのまま、階段を駆け下ります。
なんか見覚えある…
裕翔「…あいつ…まさか。」
夏樹は任務完了、会ってお礼言えてよかった。
満足して階段を降りていると、急に腕を掴まれます。
夏樹「え?」
男「この前のネットに載せたか」
夏樹「なんの話…」
男「会社にばれて…仕事なくなったんだよ!!どうしてくれんだ!!!」
夏樹「知らねえよ!放せっ…!」
もしや、この前の痴漢男?
階段の途中で腕を掴まれたまま揺さぶられる。
周りの人たちは怖がって避けて通る。
男「とぼけんな!!俺には家族がいるんだ!!」
夏樹「やめろって!危ないから!!!」
ぶんっと腕を振り払うと、あっけなく腕が解放され、
勢いが余って、バランスを崩します。
夏樹「あっ…!」
足が段差からずり落ち、体が宙に。
お、落ちる…!!
慌てる男の後ろから、必死の形相で、階段を駆け下りてくる男の子が、
一瞬だったが、スローモーションのよう。
夏樹に手を伸ばし
そのまま飛び込んできた。
夏樹の頭を包み込む
ガタガタガタ!!
そのまま階段を転げ落ちる2人。
周りは騒然。
大丈夫か、と声をかける人々。
抱きしめられていたから、夏樹は無傷だった。
夏樹「…金山くん!!!」
腕を押さえて悶える裕翔。
裕翔「…ゔっ……」
頭も打ってるのではないか。
顔をしかめて…苦しそう…
夏樹「か、金山くん…しっかりして!金山くん!!!」
裕翔は薄っすら目を開けて、夏樹を視界に映します。
裕翔「…夏樹さん…怪我…ない?」
夏樹「む、無傷だよ、ごめん…ごめんね…俺のせいで…」
今は女子高生なんて演じられません。
ぼろぼろ涙が出てしまう。
泣く資格なんてないのに、
裕翔の袖を握り締めます。
その震える手にゆっくり右手を添える裕翔。
裕翔「…泣くなよ…」
裕翔はゆっくり微笑んで見せ、目を閉じました。
夏樹は何度も悲鳴に近い声で裕翔の名前を叫びます。喉が潰れるぐらい。
やだ…やだよ…
この後、周りの人が救急車を呼んでくれて、裕翔は運ばれていきました。
続く