夏樹「…ピアス」
だいちが珍しくピアスをつけて出かける準備をしています。
だいち「おう」
夏樹「え?デート?」
だいち「…いや、普通に、ダチ」
夏樹「んー」
つまらなそうに返事をし、
だいちをおしのけて洗面台の前に立ちました。
仕事に向かうのか、ただ帽子をかぶるだけなのに髪を整え始めた。
だいちはしぶしぶ一歩下がって、髪の毛を整え、家を出ました。
・
だいちの友達「お前、染めねーの?」
だいち「だな」
だいちは高校の友達と久しぶりに会っていました。
そう、ヤンキー時代の。
だいちの友達「なんでー?バチバチに決まってるの見たいー」
だいち「…あきた」
色々理由あるけど、ごちゃごちゃいうのもださい。
それに、あいつも、こっちの方が…
だいちの友達「んで?この後どこ行く?クラブ?」
だいち「…や、クラブは…」
だいちの友達「は?!え?どうした?!」
だいち「…いや、
だいちの友達「んだよぉ、大人になっただいちの、女の捕まえ方見せてもらおうと思ったのに…」
だいち「他に漁ってる暇ねーし」
だいちの友達「え、好きな人いんの?」
だいち「……」
だいちはグラスを回し、氷がくるくる回るのを見ながらぽつりと、
だいち「…だったらなんだよ」
恥ずかしそうに顔を伏せながら水を飲みました。
だいちの友達「へぇ!!!一途に恋してんの?丸くなっちゃって」
だいち「…うるせえな、もう会えねーって思ってたから、うかうかしてらんねーんだよ」
だいちの友達「へぇぇ…そんなに好きなんだ…」
だいち「そうだよ、出会った時から、ずっと好きだよ」
だいちの友達はぱぁあと目を輝かせ、口を両手で隠します。
だいちは不貞腐れたように言い捨ててそっぽ向きました。
男「柚葆ちゃん?どうした?急に黙って…顔も赤いし…」
仕切りの向こうから声が聞こえて、
バッと立ち上がり、仕切りの裏の席に
だいち「…柚葆」
恥ずかしそうに縮こまる柚葆。
恐る恐るだいちを見ます。
一緒にいる男は、優しくて真面目そうな…柚葆の好みそうな男。
男「え、柚葆ちゃん…知り合い?」
柚葆「…友達…っていうか…」
柚葆は目を合わせられずごにょごにょ
もしかして、聞かれてた?さっきの
だいちは柚葆の腕を掴み、
だいち「わり、こいつ借りる」
男「ま、待ってください!あ、あなたみたいに危なそうな人に…」
あー、脚震えちゃって、
周りから見たらやっぱり野蛮なんだ、俺。見た目変えても。
だいち「悪いな、こいつ、俺のだから」
柚葆「なった覚えないし…」
だいち「いいから、行くぞ」
柚葆「ちょ!」
だいちは柚葆の肩をグッと引き寄せそのまま店を出て行きました。
だいちの友達「…ごめんなさい、あいつ、なんでも強引で」
パッと伝票をとります。
男「え、いやいや、君が支払う必要は…」
だいちの友達「…あいつが、払っとけって」
だいちは自分たちと柚葆たちの分までお金を渡していた。
だいちの友達は、
あの子のことが、真っ直ぐに好きなんだ。と
変わらない漢気と強引さに、なんだか、口元が緩みました。
・
だいちに手を引かれ、
夜の涼しい風を受けます。
人混みに溶けてしまうような、細い声で
だいち「聞こえたか…さっきの」
なびく黒髪の後頭部しか見えません。
柚葆「…あ、あんたの声だったから…全部聞いちゃったわよ」
握る手がさっきより強くなった。
そのまま黙って、ひたすら歩き続ける。
どこに行くのよ…っていうか、なんで黙ってるのよ
柚葆「…だいち」
ピタッ、足を止めた。
柚葆「友達に言えるなら、私にも言いなさいよ!」
また強く手を握り、早足で歩き出し、路地裏へ
柚葆「え?ちょ???」
ガバッ
全部持っていかれるぐらい、力強く抱きしめられます。
あ、だいちだ
だいち「…柚葆」
熱を帯びた声。
柚葆を抱きしめたまま、耳元で、
だいち「初めて、会った時から……ずっと好き」
欲しかった、それが、
だいちから欲しかった。
柚葆もだいちに負けないぐらい、ぎゅーーっと抱きしめます。
目を見て、ちゃんと答えたい
腕の力を緩め、だいちの顔を見たいのに
ぎゅ…、あれ、余計引き寄せられた?
だいちの胸をちょっと押したのに、離そうとしない。
抱きしめられる腕が強すぎて、
柚葆「い、痛い!痛いってば!!」
柚葆が叫ぶとパッと力を緩めるだいち。
柚葆「ちょっと!潰れるかと思……」
真一文字に結んだ口、眉間に寄った皺、ヤンキー時代の睨みつける時の…だけど
少し潤んだ、合わせようとしない目と顔の赤さ、
照れているのを頑張って隠そうとしてる顔だ。
こんな顔するんだ。
柚葆「…かわいいじゃん」
だいち「…見んな」
柚葆「見せなさいよ〜」
恥ずかしくて慌てふためくだいちが可愛くて、顔を覗き込もうとします。
するとだいちの手が伸びて
柚葆の頭を押さえて
柚葆「んぐっ」
噛み付くようなキス。
カチャカチャと、口の中で歯とだいちの舌ピアスがぶつかる音が響きます。
あ、やばいかも…
立っていられなくなり、膝から崩れ落ちそうになると、
わかっていたかのように、タイミングよく片手で柚葆を受け止めるだいち。
目がトロンとなり、ハアハアと肩で息をする柚葆を見て、
だいちはいつもの満足げなにやりとした顔。
だいち「キスだけで、そんな顔すんだ」
柚葆「…だいち…だから、」
だいち「ん?」
柚葆「私だって…ずっと、言ってくれるの、待ってたんだから」
照れくさいのに、恥ずかしいのに止まんない。
気持ちが溢れて。
柚葆「…私に、恋を教えたの…あんたなんだからね」
こんなこと言ったらまた調子に乗る…
と思っていたが、
だいちはとろけるような優しい顔をして、柚葆の頬に触れました。
そして、頬を撫でながら、
だいち「…じゃ、いくか」
柚葆「え、どこに?…きゃ!!」
柚葆の腰をがっちり支えて、路地裏を抜けて行きました。
・
その頃、井間と芽衣は手を繋いで信号を待っていました。
井間が、なにかを告げ、
芽衣は、目から一粒の涙を流しました
続く